天体ショー2

外国滞在中に、その地で金環食を見られるという千載一遇の機会を逃してしまったのだ。ホストファミリーのお父さんとお母さんに日食があることを知っていたか聞いてみた。
ああ、ニュースでそんなことを言っていたなぁとの返事。あまりのテンションの低さに唖然。天体のことなど、全く無関心なようだった。
テレビのニュースにしても、実にあっさりした扱いだった。夜明けのキングス・パークの向こう側から昇る、リング状太陽を捉えた映像をほんの数秒流しただけ。事前の報道もあまりなかったに違いない。
メディアがそれほど関心を示さないのでは、日食があることを事前に知るのは難しかっただろう。
それでも諦めきれず、次の日、語学学校に行った時、ほかの生徒たちに日食のことを聞いてみた。
ニュース英語を聞き取るだけの語学力さえない生徒がほとんどだったので、これは聞くだけ無駄だった。だいたい、日食を表す英語、eclipseすら知らないのだから話にならない。
これが日本なら、もう少しメディアも人々も関心が高く、せっかくのチャンスを逃すことはなかったのではないかと、そのあともしばらく、悔しい気持ちが収まらなかった。
今回の金環食の報道ぶりから、私がこの時に思ったとおり、日本では日食への関心が大変高いことがわかったが、オーストラリア国民と日本国民の日食に対する温度差は相当なものだ。これが皆既日食なら、また話は別なのかもしれないが。
それにしても、金環食に夢中になる日本国民はこぞって天文に関心が高いのだろうか。
そうではあるまい。今回の金環食のことをNHKは、「世紀の天体ショー」などと大仰なフレーズを使っていたが、世紀の天体ショーと言えるほど金環食、それから皆既食も含めて、稀な天文現象ではない。
ある特定の地でこれが見られるという条件を付けるから、珍しいのであって現象そのものは世界のどこかで、毎年のように起こっている。
世紀の天体ショーと言うからには、多くとも一世紀に一度ぐらいしか起こらない天文現象でなくてはならないだろう。
本当の天文ファンなら、当然のことながら本物の世紀の天体ショーの方に関心が向く。