自己責任5

インストラクターに続いて、乗馬は得意だといっていた先生が、難なく坂の上まで、馬を登らせた。
3番目は私が行くと名乗りを上げた。今見た二人の馬の操り方がイメージとして残っているうちに、実行に移したほうが失敗がないと思ったからだ。
一番まずいのは、坂を上る勢いが足らずに途中で馬が止まってしまうことだ。
上り坂は急で、坂の途中で馬が止まってしまうと、馬から後ろ向けに転がり落ちてしまうかもしれない。坂はそれほど急だったのだ。
そうなれば、ただでは済むまい。同意書にあった単語が頭をかすめた。
ぐずぐずしていると決心が鈍るので、下り坂を降りはじめた。それほど急でもない下り坂だったが、馬上から見るとえらく急に見える。
坂を降り切る少し前に、馬の横腹に蹴りを入れ、速度を一気に上げて、上りにかかった。頭に浮かべたイメージどおりに、馬は無事に坂を上りきって、平坦な場所に立った。
一人一人が、無事に難関を乗り越えていった。最後に残ったのが、先生の娘だった。
坂を上りきった私たちが見守る中、彼女は恐る恐る坂を下りようとするが、決心がつかないのか手綱を引いて、馬をとめてしまう。
何度も同じことを繰り返すが、やはり坂を下りるのが怖いようだった。
みんなは辛抱強く、坂の上で、彼女を待ち続けた。
誰も一言も発しないその時だった。坂の手前で、立ち止まっていた馬が、乗り手の不安を感じ取ったせいか、突如、ヒヒーンといなないて棹立ちになった。
見ていた私たち全員が凍りついた。ただでさえ、下を流れる小川までが高く感じられる馬上だ。
その馬が棹立ちすると、小川までは、3m近い落差になる。落馬したら大変なことになる。幸い彼女は、振り落とされることはなかったが、恐怖心のためか、ますます、小川のほうには近づけなくなってしまった。