自己責任6

まだ、小川を越えて、坂を上れないでいる先生の娘を私たちは、じっと待った。
先生も何も声をかけない。恐怖心は自分で克服するしかないのだ。
自分がこの場所を越えなければ、一行が前に進めないことが彼女にはわかっているので、しばらくして、彼女は再び、坂を下りようとした。
これまで何度も降りかけては手綱を引いて降りるのを途中であきらめていたが、このときは手綱を引かなかった。
私たちは固唾を飲んでこの様子を見ていた。上り坂の手前あたりで、馬のほうが自主的に速度を上げた。しかし、ちょっと速度が足りない。
坂を上りきる前に、馬が止まってしまうのではと思ったその時、馬の前足が坂の上の平坦な部分に届いた。
馬は前足に力を込めて、全身を坂の上に持ち上げた。みんなから歓声と拍手が沸いた。
難関の坂を越えた後は、平坦で広々した草原で、先頭の何人かは、駆け足走行もしてみた。
およそ一時間ほどの乗馬を終えて、一行は受付の小屋に戻ってきた。
楽しかったねなどと言いながら、みんなは馬から下りた。先生の娘は、馬から下りるや否や乗ってきた車のほうに走っていった。
どうしたのかと様子を見に行くと、彼女は車内にうずくまってしくしくと泣いていた。
必死でこらえていたものが、緊張が緩んで一気に出てきてしまったのだ。
彼女にはちょっと刺激が強すぎたようねと先生は言った。
時間が経てば、今日のことも楽しい思い出になるんじゃないかと余裕の発言をしてみたが、その言葉を発している自分の足が小刻みに震えているのを感じた。
使ったこともない筋肉を使って、足が疲れていたのは事実だが、私自身、精神的に大変な緊張があったのだ。