イルカ漁解禁2

オーストラリアに半年ほどいたことがある。滞在中は、日本では中学校と高校が一緒になっているハイスクールのいくつかのクラスで、日本の諸事情を教えていた。
オーストラリアは、反捕鯨の急先鋒の国の一つである。日本の漁船に体当たりをしたりして、調査捕鯨を妨害するシーシェパードという反捕鯨団体があるが、シーシェパードはオーストラリアの団体だ。
そうしたオーストラリアにいれば、生徒が日本人の捕鯨について追求してくるのは時間の問題だった。
あるとき一人の生徒が、"Why do Japanese people eat whale?"と聞いてきた。
この質問に対しては、次のように答えた。
"Japanese people used to eat whale a lot especially right after WWⅡ. But these days, not so much as before. In some remote regions, people still do so, though."
そしてこの回答に続けて、こちらから次のような逆質問をしてみた。
"Austrailians eat beef and lamb a lot. Is it OK to do so? I don't think there is a big difference between eating beef and eating whale."
この質問に生徒の一人が答えた。
"Totally different because cattle and sheep are all stupid."
この回答の意味がその時点では、私には分からなかった。
牛や羊は馬鹿だから食べても問題はないというのはいったいどういうことなのか。
図書館に行って、クジラやイルカについて、オーストラリアの生徒たちがどのような知識を持っているのかを調べてみることにした。
図書館には、クジラやイルカに関する書物が一つの棚を占有するほどの数があった。
低学年向けのものから高学年向けのかなり詳しい内容のものまで、クジラの種類や生態、生息地域から人間とのかかわりという文化的側面まで、実に幅広く、内容も充実していた。
恥ずかしながら、シロナガスクジラマッコウクジラでは、歯の形態が違っていて、前者はヒゲクジラの、そして後者が歯クジラの代表であることをそれまで知らなかった。
これらの書物に共通して書かれているのは、クジラやイルカが高度な知性の持ち主であること。そして将来的には、人間との意思疎通が取れるようになるだろうということであった。
このときようやく、先の生徒の回答の意味が分かった。知性を有することに極めて大きな価値を置くキリスト教国において、クジラやイルカはもはや動物、とりわけ家畜(cattle)などとは同一のカテゴリーには入らないのだ。
先の生徒の言いたかったことをもう少し正確に英語にすれば、"Cattle have no intelligence, which makes the two things totally different."ということなのだ。