日本人の英作文20

荒川静香のエッセー英訳の第一回。原文とその英訳は次の通り。

原文 私にとって初めての犬は、10歳の誕生日に両親がプレゼントしてくれたシーズーの子犬「チャロ」。12月が誕生日なので、クリスマスもお年玉も一まとめでいいから「犬がほしい」とねだったのです。犬を飼うのがきっかけで、実家は、マンションから一戸建てに引っ越しました。
訳文1 On my tenth birthday in December, my parents gave me Charo, s Shih Tzu puppy, which I requested and was a first pet dog of my own. And I had to give up my Christmas and New year gifts. In order to keep Charo, we had to move from a condo to a detached house.
訳文2 My parents gave me a puppy Shih Tzu as my 10th birthday present. It was my first dog and I named him Charo. My birthday is in December and Christmas and New Year come one after another, so I asked my parents for a dog as a present of the season. To keep the dog, we moved from a condo to a detached house.

初心者向けの英作文の題材といったものの、初回から英訳するのに難しい箇所があった。
どちら訳文も英訳が難しくなりそうなところを簡単な英文で言い換えている。これは一つの考え方で、元の日本語の表現や構造をそのまま英語に置き換えるのではなく、内容を簡単な表現の英語で表そうというもの。
通訳などではこれが普通だ。なまじ、原文の構造をそのまま英語に置き換えようとして、不自然な英語になるよりはそのほうが無難といえるが、元の文をあまりに改変してしまうのは英作文としては問題がある。
訳文1の場合、1文目と2文目の論理的なつながりがわからず、なぜクリスマスプレゼントとお年玉を諦めなくてはならないのかが解らない。言いかえをしたときに、原文の情報が一部欠落してしまったからだ。
訳文2の場合は、2文目のmy first dogだけでは何の序列の一番目(first)なのかがわからない。原文の「私にとっての初めての犬」という表現は「自分が主として世話をすることになった最初の犬」という意味が含まれていると考えられるが、英語のfirstにそこまでの意味を乗せることはできない。
日本語は読み手の読解力をあてにして、表現の省略が随所で行われる。しかし、そうした文をそのまま直訳的に英語に訳しても、情報不足、説明不足で意味が取れなくなる場合がある。
first dogには訳文1のように原文にはない語を加える必要がある。
また、訳文2の第3文目のような言い換えで原文の意味が正確に伝わるかどうかは微妙なところだ。
訳文1も訳文2もどこをどう訂正するという対象ではないので、私の英訳例を挙げておく。
英訳例 The first dog I'd ever had as my pet dog was Charo, a Shih Tzu puppy, which was given to me on my tenth birthday. I had requested a dog as my tenth birthday present, Christmas present of the year, and gift of the coming New Year's day combined together. Our family moved from a condo to a detached house so that I could keep the dog.
英訳例の第2文目と第3文目は言い換えによる表現。言い換える場合でも、この程度にしておくのがよい。