日本人の英作文21

荒川静香のエッセー「チョコがくれたパワー」の第一回目の部分の英作文を、学習会のメンバーの一人がメールで送ってこられた。
せっかくなので、その英作文を以下に引用する。

訳文3 The first dog for me was a puppy of Shih Tzu , which my parents gave me on the tenth birtrhday.I named it Charo.
Since I was born in December, I asked them to give me a dog as both a Christmas and a New Year’s present.
Because of keeping a dog, we moved from the apartment to the detached house.

上記の訳例は、日本語の原文に忠実に英訳しようとしたもので、英作文といえばこういう形になるのが普通だろう。
一文目は前回の訳文2の場合と同じで、"The first dog for me"では意味が十分伝わらない。10歳の誕生日のプレゼント以外にも自分が飼っている犬が何匹かいて、その中で一番大事に思っていたのがチャロだったとか、色々な解釈が可能だ。
訳文1のように原文にはない語句を加えて、紛れのない訳にする必要がある。
二文目は原文に忠実に訳して問題がないように見えるが、理由を表すSince〜の部分と、主節の部分が論理的にまったくつながらず、英語としては意味不明になっている。
12月生まれであることと、クリスマスプレゼントとお年玉を合わせて形で、犬を誕生日に欲しいということと、どういうつながるのか。この英語を読んでも理解できない。
一文目と同じで、日本人は表現が完全ではなかったり、省略があっても、足りない部分を読み手側で補って理解する。
こうした習慣は小学生の高学年ぐらいになると自然に身につくから、大人の日本人だと、元の日本語が不完全であっても、そうとは感じなくなっている。
しかし、英語は、表現者側に誤解を招かない、明快、簡潔な表現を心がける責任がある。
こうした言語文化の差があるため、元の日本語に表現上の不備がある場合、それをそのまま英訳しても、英語としてはさっぱり意味の通らないものになる。
二文目の日本語は表現に不備のある文の典型で、ここを丁寧に言うと、「私は12月生まれで、クリスマスも近い。年が明ければ元旦で、プレゼントをもらう機会が同じ時期に三つ重なっている。それで、自分の10歳の誕生日の時、プレゼントをもらう3回の機会をひとまとめにして、誕生日の一回とし、その分、やや高価なプレゼントとして、犬が欲しいとねだった」となる。
訳文1も訳文2も、元の日本語にはない文を加えたのは、原文で欠けている部分を少しでも補おうとした試みだといえる。
元の日本語を大幅に改変することなく、簡潔にその内容を紛れのない英文にするのは結構難しい。