法の支配

表題の言葉、最近、中国の海洋進出、あるいは、中国船団による小笠原諸島近海での珊瑚の密猟に関連して、安倍首相のコメントによく出てくる。
さて、「法の支配」とは何か。この言葉が、安倍首相が意図している相手に本当に届いているのか。
「法の支配」をグーグルで検索してみたところ、とあるサイトには次のような解説があった。

法の支配は、最も基本的な法であり、統治されるものだけでなく、統治する者も法に従うべきであるとする原理です。法とは、客観的に導き出された原理原則の上に発見されるものであり、個人の意思によって創造され得るものではありません。
法の支配を適用する際の最も重要な点は、官権は、適正手続と認められ、制定された手順に従って書面に記された、かつ公的に公開され認められている制定法に従っている場合にのみ合法的に行使されるという原理です。
全体主義のリーダー、あるいは暴民政治による外部の圧力からも原理原則は守られるべきです。このように法の支配は、独裁政権無政府状態とは真逆の原理です。

法学を学んだものならいざ知らず、「法の支配」の意味を上記の意味で捉えている人はそう多くはあるまい。
「法の支配」の概念は、民主主義の先進国、英国が発祥であり、その後多くの先進西欧諸国にその原理がそれぞれの法体系に取り込まれていった。
しかしである。英国と文化やものの考え方の基本を共有する西欧諸国と違い、世界のその他の地域では、この考え方そのものが浸透してはいない。
日本は、西欧先進国に倣った法体系を有するが、民主主義の根幹を成すこの原理を理解する人の割合は少ない。
さて、今回のネタは「法の支配」を無視する某国の振る舞いを糾弾しようというものではない。
「法の支配」で検索したところ、あるサイトが目に付いた。サイトの内容の一部が示されていて、それを読むとどうやら、英文記事の翻訳のようだ。
そこで、このサイトを開いてみた。案の定、ウォールストリートジャーナルの翻訳記事。下記がそのサイト。
http://jp.wsj.com/articles/SB12669324362286583938704580229463800907080
問題は記事の一部、次の箇所だ。

法家は法について、専制君主が権力を維持できるようにする道具とみなした。換言すれば、「法の支配」ではなく、「法による支配」を主張したのだ。「法による支配」では、支配者も被支配者も含めあらゆる者を対象とする。

訳者は「法の支配」と「法による支配」を完全に取り違えている。要するに誤訳。
「法の支配」の意味を知らないために起きた誤訳といえるが、念のために元の英文記事を参照してみた。
問題の部分の英語原文。

The Legalists saw law as a device to enable despots to hold on to power. They argued, in other words, for rule by law rather than rule of law that holds everybody—both rulers and ruled—to account.

この記事の一番重要な要素である法原理について理解していない訳者。理解はしていなくても、英文の構造からでも、誤訳と気づきそうなものなのだが。
翻訳された日本語を読んで、その誤訳に直ぐ気がついた日本人がどれほどいるだろうか。
ことほどさように、民主主義の原理は日本に浸透していない。