知性が大事48

通勤の行き帰りにずっと考え続けて一週間ほど。悪魔から、天使に質問した場合と同じ答えを引き出せそうな質問をやっと思いついた。
車中で思わず,「そうかやっと分かった」と声に出して叫んでしまい,回り人たちは何事かとこちらに不審そうに目を向けた。
どういう質問かというと、先に挙げた「日本で一番高い山は富士山ですか」を例に取ると,これに対する返答を質問の中に織り込んで,さらにそのときの返答に付いて質問をするという形式。
つまり、「日本で一番高い山は富士山ですかという質問に,あなたは『はい』と答えますか」というような二重構造を持った質問形式だ。
この質問に、天使の答えは当然「はい」になる。一方、悪魔にこの質問をしてもやはり答えは「はい」だ。
悪魔は一重構造の単純な質問に対する自分の答えに、さらにうそをつかねばならず、二重構造の質問には「はい」と答えるしかない。
この形式の質問では,質問する相手が天使か悪魔かは問題ではなくなるので,一度の質問で天国への道を知ることができる。
質問する相手がどちらになっても,また聞いた相手がどちらの門番になっていても必ず天国への道を知ることができるということを、ちょうど数学の図形の証明のように,レポートに書いて、問題を出した部長に提出した。
レポートを受け取った部長は、レポートを見ても何も言わなかった。この証明でよろしいともなんとも。
私は自分の出した答えに自身があったが,本当にそれが正しかったのかどうかはそのときは分からなかった。
就職したものの、やはり腎臓が再び悪化したので,この会社を辞めることになった。そして、それから何年も経った頃、たまたま手にした本に、この「天子と悪魔」問題のことが書かれていて、私の出した解答が正しかったことが分かった。
特別枠で入社したものに対する、特殊入社試験に私は合格していたことが、辞めてからわかったというのも皮肉な話だ。
話をオーストラリアでの出来事にもどそう。
テッドのうちに滞在すること一週間弱。いよいよ、オーストラリアを去る日がやって来た。
空港まで、テッドが車で送ってくれることになった。
出発の日の朝、テッドの家族全員が見送ってくれた。そして、ジョージも。
ジョージは私と向き合い,右手をいったん腰の辺りに据えて,いったんタメを作って,それから力強くこちらに突き出した。
最後もまた握手。本当に握手の好きなやつだ。
ぐっと力をこめて私の手を握り締め、さらに体を引き寄せてハグ。そして彼は「グッドラック」といった。
欧米人だからといって、いつも必ずハグをするわけではない。やはりこれはかなり親密なあるいは、信頼している相手に限るのだ。
私はジョージの「グッドラック」に対してなんと答えたか覚えていない。
しかし、オーストラリアを去るに際してなんともいえない感激を覚えたことを今もはっきり覚えている。
日本の諸事情をオーストラリアの高校生,中学生に教えるために参加したプログラム。
しかし、教えたことより、教えられたことのほうがはるかに多かったように思う。
程なく機上の人となった私の眼下に夏休みに訪れたロットネス島がその美しい姿を現した。
島影が遠ざかり、姿を消す頃,私の心はすでに日本へと飛んでいた。