天体ショー5

観測するためには、日が沈む頃か、夜明け前に辺鄙な場所まで出かけなければならない彗星が一般受けしないのも無理はない。
その点、日食は日食帯の中にあり、太陽が見える場所ならどこでも観測可能。日食は昼の明るい時に起こるに決まっているから、メディアもライブでの中継が簡単だ。お祭り観測には最適だろう。
しかし、世紀の天体ショーと呼べるものの主役はやはり彗星だ。ほとんど彗星が見た目が地味だが、ごくまれに、肉眼でもみえる、華麗に尾を引いた姿を見せる巨大彗星がやってくる。その稀な例外がヘール・ボップ彗星だったのだ。
ヘール・ボップ彗星があらわれたのは1997年だったが、この前年の1996年にもかなりの大型彗星が現れた。
その名を百武彗星という。名前は発見者のアマチュア天文家、百武氏にちなむものだ。
発見者が日本人ということで、メディアの盛り上がり方はヘール・ボップ彗星の時よりも大きかったように思う。
百武彗星が一番明るくなる頃、つまり太陽に最接近するのに合わせて、各地の天文台等で、観測会が開かれ、私もその一つに参加した。大彗星という前評判に違わない長い尾を持つ彗星だったが、肉眼で見た百武彗星はやはりそれほど華麗なものではなかった。
わざわざ天文台等の観測会に参加した、一般の人たちはちょっとがっかりしたのではないだろうか。
百武彗星が太陽から遠ざかっていく頃には、メディアもこの彗星の話題を取り上げなくなった。
太陽から遠ざかるにつれ、彗星はその光度を落としていく。ただでさえ見にくい彗星が光度を落とすと、地味そのもの。
太陽から遠ざかり、彗星が地球に再び近づいた時に、私は車で、ある山の山頂近くまで行ってみた。地球に近づいた時の彗星がどんな風に見えるのか見てみたくなったからだ。
百武彗星は、天文学的スケールから言うと、地球スレスレのコースをやって来た。こうしたこともまた、極めて稀なのだ。