同級生K君の思い出 6

外見のよさに加えて、水溜りプールに飛び込むという勇気を見せたT。女子だけでなく、男子の心もわしづかみにした。

私は自分にはない魅力のあるTに、K君の場合とは違った意味で、完全に負けたと感じた。

男子生徒は全員彼の取り巻きとなった。二人を除いて。

この日以来、私を姿を見ると、離れたところで、数人の男子がこちらをちらちら見ながら、なにかを話す様子が見られるようになった。

感の良い私はすぐに、近いうちに軍事力の行使があるだろうと察知した。

Tの出現前には、私とK君 vs. その他の男子という対立関係は、緊張状態ではあっても一種の平衡状態だったのが、Tが加わったことで、後者が圧倒的に有利になったからだ。

ある日の放課後、教室の掃除の時間についにそのときが来た。クラスで一番大柄の男子生徒が何かをわめきながら、私に向かってきた。

彼の両手がこちらに伸びてきて、私につかみかかろうという寸前に、相手の顔から視線をはずさず、相手の向うずねに左足で蹴りを加えた。

一発ではなく、間髪をいれずに、右足で逆の脚にもう一発。

体の大きな人間は、体の大きさを武器に小さい相手に覆いかぶさろうとする。

しかし、そのとき足元は隙だらけだ。さらに言えば、大柄な人間は総じて動きが鈍い。

敏捷性の高かった私からすれば、動きの鈍い相手の、しかも隙だらけの脚に蹴りを入れるのは簡単な事だった。

相手勢力の生徒たちは、知らなかったのだ。このときを予想して毎日、私が蹴りの練習していたことを。

私の鋭い反撃にたじろいだ相手は、私につかみかかることを止め、撤退した。

この日以来、数人が集まって、こちらを伺うということはなくなった。

彼らは作戦を変更した。次の作戦は、今で言う「しかと」。私とは一切口を利かない。私との共同作業は一切しない。

近づく事もしない。いつも2mぐらいの距離を置く。これって、今で言うソーシャルディスタンス?

給食のあとの自由時間にも、誰も近寄らないし、話もしない。私の話し相手はK君だけだった。

K君はというと、こうした状況にも平気の平左。考えて見れば、以前はK君には誰も話し相手もない、孤立無援の状況だったわけで、一人でも話し相手ができたから、むしろ状況は良くなったわけだ。

K君とはいろんな話をしたと思うが、あまり良く覚えていない。確か、彼には弟だか、妹がいて、新聞配達以外にも弟妹の面倒も見なくてはいけないというような話をしたように思う。

私には4才下の弟がいて、両親共働きのため、この弟の世話は私の責任だった。

こうした共通点があったため、クラスで孤立していたとはいえ、心理的ダメージもほとんどなかった。