ワンコ屋敷6

草むらに逃げ込んだ子犬はうまく逃げられたらしく、捕獲員たちは手ぶらで帰ってきた。
その後、回収車に積み込んであった金属製の小型の檻を草むらに仕掛けて、現場から立ち去った。
捕獲員たちがいなくなった後も、私はしばらくはその場に立ち尽くしていた。
昨日までは、そのあたりに近づくと、草むらから顔を覗かせていた子犬たちはもういない。
一匹か、二匹は、うまく捕獲員の手を逃れたようだが、もうここには戻っては来るまい。

  • 仕掛けられた檻(2008年2月14日撮影)


捕まった子犬たちのその後を考えると、なんともやりきれない気持ちで、その場を去った。
次の日の朝早く、仕掛けられた檻を見に行った。檻にかかっている野犬がいるかもしれないと思ったからだ。
檻は入り口の扉が開いたままで、何もかかってはいなかった。なんだか安心した。何日間かは、檻はそのまま同じ場所にあったが、かかる野犬はいなかった。
人間が思っている以上に野犬は、賢いようだ。
数日後、檻は空のまま回収された。

  • 逃げ延びた子犬(2008年2月17日撮影)


檻の回収を見計らうように、現場近くの草むらに一匹の子犬が姿を現した。
多分、逃げ延びた子犬なのだろう。堤防の上から見ていたら、しばらくそれまで身を潜めていた草むらの辺りを、やや距離を置いて見つめていた子犬は、兄弟たちの姿が見えないとわかると、川下のほうへと去った。
その後、散歩で現場を通りかかっても、その子犬の姿を見ることは二度となかった。