新たな子犬たち35

捨てられていた猫、まとめて8頭を保護する羽目になった次の日の、11月19日の土曜日は朝から雨だった。
夜半からの雨は、昼近くになって本降りの雨となり、樋が屋根を流れ落ちる雨を受け止めきれず、そこここであふれていた。
昼食を摂った後、一度川の様子を見に行くことにした。野犬グループのメスの1頭が子犬のを生んだのではないかと思われる場所は、家から2kmほど離れている。
川沿いに道路が走っているので、車で行くことにした。
もうその時、すでに頭の中には、母犬が中州から、子犬を連れて、堤防に避難している姿がイメージとして湧いていた。
そこで、避難している子犬を収容するため、前日に猫を収容するのに使ったかごを持っていくことにした。このカゴなら、子犬の5、6頭は十分収容できる。
目的の場所から程近い道路わきに車を止めて、車外に出た。持参したカゴを手に持って堤防に向かった。

  • 増水した時の川の様子


堤防の中州の草むらが見渡せる場所に出てみると、案の定、中州の大半はすでに水没していた。
さて、野犬の母犬と子犬たちはどこにと、辺りを見渡したが、動くものの気配はまったくなし。
堤防に避難している母犬とその子犬たちのイメージはかなり強いものだっただけに、ちょっと拍子抜け。うーん、予感が外れることもあるかと思いながら、堤防の斜面を降りて、河川敷の遊歩道に出た。
遊歩道はまだ冠水はしていなかったが、それも時間の問題だった。降りしきる雨は到底止みそうもなく、さしていた傘が大きな雨音を立てていた。
子犬が隠れて居そうだと当たりをつけていた草むらのほうをじっと見つめていると、傘の立てる雨音にまぎれて、かすかにキューンキューンという音がし始めた。
最初は空耳かと思ったが、じっと聞き耳を立てていると間違いなく、その音が当たりをつけていた方向から聞こえてきた。
やっぱり子犬は居たのだ。それにしてもこんな緊急時に母犬はいったいどこに行ったんだ。早く助けなきゃ子犬がおぼれてしまう。
遊歩道には水は来てはいなかったので、そこから、子犬の声がする辺りまでは、ほんの5mほどしかない。
しかし、その5mは、もう人間が到達できるような状況ではなかった。雨で増水し、濁流となって流れている川の5mを流されることもなく、目的の場所に到達できる人間はいないだろう。
あたりを見回して、母犬がいないかどうか探していると、私が立っている場所の上流方向、60、70mほどのところになにやら動くものが有るのに気がついた。
急いで堤防を駆け上がり、そちらを見ると、間違いなく、野犬グループのメスの一頭だった。
母犬は、こちらのほうを見つめるだけで、近づいては来ない。ええい、何をやっているんだ。お前が助けなきゃ誰が助けるんだと思ったが、母犬は動こうとしない。
私がいるのが邪魔なのかもしれないと気がつき、いったん家に戻ることにした。もう少し時間が過ぎてから、もう一度戻ってくることにした。