空耳?

その音に気がついたのは、一昨年の今頃のことだ。
毎夜、野犬グループの観察のために、近くを流れる川の堤防、河川敷道路などを自転車で走るが、その時に甲高い、鳥の地鳴きのような音が聞こえてくる。
鳥の観察をしている人なら、カシラダカの地鳴きのような音と表現すればいいだろうか、金属的な短く高い音で、連続的に「ヒュンヒュン」とも「チッチッ」とも聞こえる音だ。
川沿いの道を走るのは、夜だから、時間的にいっても鳥の鳴き声ではない。
この音については、不可解なことがたくさんある。
まず、季節限定であること。11月の終わりごろ、本格的に寒くなり始めの頃に聞こえ始め、年を越して、真冬になると、聞こえなくなる。
次に、場所がある程度限定されている。たとえば、河川敷道路を走っているときに、ずっと聞こえてくるのではなく、ある場所に差し掛かったとき、突然聞こえ始める。
そして、奇妙なのは、いったん聞こえ始めると、私に付きまとうように、耳、それも左耳のすぐそばでずっと音がするのだ。
そのまま、走り続けていると、突然吹っ切れたように、音がしなくなる。
次の日の夜に、同じ場所で、同じように音が始まることもあれば、まったく聞こえないときもある。
天候も関係する。雨の日は全然しないし、雲って湿度が高い時も聞こえない。晴れて、11月らしい、ヒンヤリと乾燥した日にもっともはっきりと聞こえる。
この音に気がついた一昨年ごろは、自転車の何かが音を立てているのかとも思ったが、自転車を止めると、音量が下がるが、やはり音は続いているので、自転車とは関係がない。
最近、この音に関して新しいことが分かった。これまでは、夜しかこの音に気がつかなかったが、昼間の時間でも、ある場所に行くとかなりはっきりとその音がしていることに気がついた。
その場所とは、やはりいつも行っている川の遊歩道。遊歩道に立って中州の方に顔を向けると、場所は限られているが、中州の方向の複数の場所から、この音がはっきりと聞こえてくる。
多分、この音は、以前からしていたのだろうが、昼間の時間に、枯れ草が覆う中州から聞こえる音は、先に述べたカシラダカ、あるいは別の野鳥の地鳴きだと思い込んでいたため、特に気にも止まらなかった。しかし、この音がする方向にいくら目を凝らしても、一羽の野鳥の姿ものないのだ。
この音の正体は一体、何だろう。誰か別の人と一緒に河川敷道路に出て、その音がその人にも聞こえるかどうか確かめたいような、確かめるのが怖いような、そんな音が晴れた日には、川の中州の方から聞こえてくる。