日本人の英文解釈6

ここで、課題文と訳文例を再掲する。

P5
If Marilla had said that Matthew had gone to Bright River to meet a kangaroo from Australia Mrs. Rachel could not have been more astonished.
訳文例: もしマリラが、マシューがオーストラリアから来たカンガルーに会いにブライトリバーに行ったと言ったなら、レイチェル夫人はこんなにも驚かなかったろうに。

訳文例はこれまでの説明でも明らかなように、課題文が意味を強調するための複数のレトリックを用いていることを反映していない。そもそもif節がeven if節だとも気が付いていない。
この文を「日本人の英文解釈2」で引用した掛川恭子版ではどう訳しているか見てみる。
翻訳例: マシューはオーストラリアから着くカンガルーを迎えにブライトリバーに行ったのだと聞かされても、ミセス・リンドはこれほど驚きはしなかっただろう。
「行ったと聞かされても」の部分で、even ifを前提とした訳のようにも思えるので、訳文例よりは少しはましだ。
しかし、なぜここでカンガルーの話が出てくるのか。カンガルーの話だとリンド夫人は大変驚くのか、それともそれほどでもないのか全く分からない訳だ。
課題文が強調のためのレトリックを複数用いているのに、それを全く反映しない訳となっていて、こういっては何だが、訳文例と五十歩百歩のぬるい訳になっている。
日本語には、あることを強調するための定型的構造を持つレトリックが存在しない。あからさまで大げさな表現を好まない日本文化の下では、こうしたレトリックが発達しなかったのだろう。
しかし英語は違う。この課題文のように、これでもかと強調してくる。
その強調の度合いをちゃんと訳出するには、英語で表されたものだけを表面的に訳してもダメだ。
書かれていない部分は、日本語をつけ足して説明的に表現する必要がある。
そこで今回は私ならこう訳すという訳例を挙げてみる。
訳例: もしマリラから、自分たちはオーストラリアからやってくるカンガルーを受け取ることになっていて、マシューは、その受け取りのためにブライトンリバーに出かけて行ったなどという、突拍子もない話を聞かされたのなら、リンド夫人はさぞかし驚いたであろう。
しかしその驚きも、二人が養子をとるなどという話に比べれば大したことではない。そう思わせるほど、リンド夫人のこの時の驚きは大きかった。