日本人の英文法21

一つの時制に一つの定型訳を与えて、学習させる中学生に、現在完了形では、4つの定型訳を与えているので、中学生にとっては、なかなか覚えきるのが大変な時制である。
しかし、首尾よく定型訳をものにしたものにとっては、現在完了形何するものぞ。
英語の時制なんか、簡単と思ってしまうことだろう。
高校に入ると、文法は格段に高度なことを習う。高校生向けの文法書では、現在完了の項の最初のほうに、中学では教えない次のような説明が書かれている。

現在完了は過去の出来事や状態が、何らかの点で現在とつながりを持っていることを示 す動詞の形である。次の各例文では、そのつながりとして考えられる事柄の1例をかっこの中に示してある。
a) I've just finished my homework (so now I can go out and play).
b) I've often been invited to his house (so I know his family very well).
c) She has been sick since last Friday (and she is still in bed).
上の例はa)完了・結果、b)経験、c)継続を表すといえるが、そういう区別は別にして「現在とのつながり」に注目したい。

上の説明は、ある高校生向けの英文法書の現在完了形の冒頭にでてくる説明である。
この説明は、完了形の性質を理解するうえで、きわめて重要なことなのだが、中学で、基本用法とその例文、対応する定型訳を頭に叩き込んだ生徒の耳には、まったく届かないだろう。
「現在とのつながり」などという抽象的なことを言われても、何のことかわからないし、だいいち試験にも出てこないのだから、覚える必要のないこととして無視される。
上記の説明をしている文法書ですら、この説明の後に続くのが、やはり完了形の基本用法であり、そこに出てくる例文につけられた訳も、いわゆる定型訳のみで、「現在とのつながり」についての説明はこれ以後一度もでてこない。
現在完了の性質についての重要事項はかくして、日本人英語学習者の誰の頭脳にも、何の痕跡も残さず、通り過ぎてしまう。