沈黙の秋1

  • ミツバチの巣箱

今月12日にNHKの番組、クローズアップ現代で取り上げられたミツバチの大量死の問題。EUは今年の5月に、その原因ではないかとされるネオニコチノイド系の農薬3種の全面使用禁止を決めた。
5月に使用禁止が決められたにしては、番組で取り上げるのが遅いような気もするが、それはともかく、ミツバチの失踪や大量死は日本でも起きている。
このことは単にミツバチの数が減って、ハチミツの供給量が減るという直接的な影響に留まらず、ミツバチの働きによる植物の受粉という、農業全体に関わる問題をはらんでいる。
EUでの使用が禁止されたネオニコチノイド系農薬などといっても、ほとんどの人は初耳だろう。
一般人にはなじみがなくても、ネオニコチノイド系農薬は、その効果の高さから、世界のあらゆる場所で使用量が急速に増えていて、日本も例外ではない。
ネオニコチノイド系農薬が登場したのは1990年代の初めで、登場当初から、これまでの有機リン酸系に代わる画期的農薬として期待が高かった。
次にあげるのは、私の手元にある1995年6月30日が初版の農薬ガイドブックの記述である。

クロロニコチル系剤(速効的で残効が長い切り札剤)
イミダクロプリド剤のアドマイヤーはイネ、園芸用の害虫を対象に開発された画期的な殺虫剤である。リン翅目(ハモグリガの仲間に卓効)、半翅目(オンシツコナジラミ、アブラムシ、ウンカ、ヨコバイ)甲虫類(イネミズゾウムシ、ハムシ、コガネムシなど)、アザミウマ目と幅広い、優れた殺虫スペクトラムをもっている。
速攻性で、かつ残効性と浸透移行性があり、また低毒性であり、ミツバチ、マメバチにも影響が少なく、直接虫体にかからなければ実質的な被害はないようだ。蚕毒については強いので注意を要するが、他のどの作物についても薬害がなく安全性が高く、画期的な農薬である。(「農薬選び便利帳」より抜粋)

同じクロロニコチル系(ネオニコチノイド系)の薬剤である、モスピランは家庭園芸用農薬として、HCでも手に入り、サツキやツツジの害虫で、他の薬剤では防除しにくい、グンバイムシに効果があることから、私も登場当初から継続して使用してきた。
対象害虫の幅広さと、その効果の高さから、登場から今日までに、ネオニコチノイド系農薬は、瞬く間に世界中で使われるようになった。
しかし、その使用が始まってから約10年を経過してミツバチに異変が起こり始めた。その異変とは、人工飼育されている西洋ミツバチの巣箱から働き蜂の姿が消えてしまうという現象だった。
この現象は英語で"Colony Collapse Disorder"と呼ばれ、通常略して、CCDと表現される。
ミツバチが巣箱の周りで大量死していて、その近辺で農薬が散布された事実があるというのなら、農薬が大量死の原因ではないかと推測するのはたやすい。
しかし、CCDでは、ミツバチの死骸は巣箱の周りにはないのだ。ミツバチたちは一体どこに消えたのか。CCDは2006年を境に北米で猛威を振るい始め、マスコミもこの現象を取り上げ始めている。
想像を絶する恐ろしいことが知らぬ間に身辺に迫っているかのようである。