ボクは猫が嫌いだった8

母猫が家の犬たちに殺されてしまったことで、猫を嫌う気持ちがなくなっただけでなく、母猫の死に報いるため、何かしなればという気持ちを持つようになった。
とりあえず、犬の夜の放し飼いを止めようとしたのだが、一度自由を味わった犬たちは、夜になると、解放さないといつまでも吠えるのを止めなくなってしまっていて、また猫が犠牲になるかもしれないと思いながらも、夜の犬の放し飼いを止めることは出来なかった。
母猫虐殺事件の後、数年間は猫が庭で死んでいるという事もなく、穏やかに過ぎた。
ある日のこと、離れの部屋にいたとき、部屋の窓の下から猫の鳴き声が聞こえてきた。
この部屋のすぐ外は、家の駐車場になっていて、この駐車場は当然ながら道路に面している。その道路をやってきた一匹の猫が、部屋の中に居る人間の気配に気がついて、鳴き声をあげたらしい。
以前の私なら、猫の声に反応して、窓を開けることなどしなかっただろう。しかし、例の事件の後、猫に対する気持ちが変わっていたため、窓を開けて外を見た。
窓のすぐ下のところに、一匹の大きな猫がこちらを見上げていた。
単にこちらを見上げているだけでなく、なにやら物ほしそうな様子だった。ひょっとすると腹が減って、何か食べ物をほしがっているのかもしれないと思い、手招きをしてみた。
猫を嫌っていた時の私からは考えられない行動だった。
その猫は、それほど大きくもない窓に、器用に飛びついて、部屋の中に入ってきた。首輪はしていなかったが、どこかで飼われている猫のように見えた。
猫が部屋に入ってきたものの、猫に与える餌の用意などしていなかったので、何もあげずにいると、猫は何もくれないのかというような表情で、入ってきた窓から、また外に出て行った。
次の日の、同じ時間、その猫はまた窓の下にやってきた。今度は、その猫のために、食べるものを用意しておいた。「猫、猫」と呼びかけると、前回同様、窓に飛びついた猫は物怖じする事もなく、部屋の中にはいってきた。
用意したフードを与えてみると、やはり腹が減っていたのか、美味しそうに平らげると、ひとしきり、体のあちこちを舐めて、こちらには一瞥をくれる事もなく、また外に出て行った。なんともまあ、態度のでかい猫ではあったが、どこか憎めないところがあった。