ボクは猫が嫌いだった9

それから、毎日同じ時間になると、その猫は離れの窓の下にやってきた。
そのころ、私は離れのその部屋で、近所の小学生二人に勉強を教えていた。猫がやってくる時間は、ちょうど小学生に勉強を教えている時間だったが、そんなことはお構いなく、窓から部屋に入ってきて、小さな皿に入れてあるフードを食べ、ひとしきり、くつろいだあと、また、窓から外に出て行った。
最初の頃は、餌だけ食べに、離れにやってきたが、そのうち小学生が帰った後、また部屋に戻ってきて、そこで朝まで寝るようになった。
こうなると、家で飼っていることになるのかもしれないと言うことで、猫に名前をつけることにした。
勉強を教えていた小学生に、猫の名前に何がいいかと尋ねてみると、ちょうどそのころ封切られた角川映画のアニメ「銀河鉄道の夜」に出てくるカムパネルラがいいのではないかと提案してくれた。
角川版「銀河鉄道の夜」は、人間が演ずるのではなく、猫をキャラクターにしたアニメ作品となっていた。この作品を夏休みに、勉強を教えていた小学生とともに見ていたので、提案された名前を採用することにした。
もっとも、カムパネルラでは発音しにくいし、長すぎるので、最初の二文字のカムでいいということで、猫の名前はカムに決定した。
ネットでアニメの初公開日を検索すると、1985年7月だった。つまり、カムがやってきたのはもう今から、28年以上前のことなのだ。
名前をつけ、自分の家の猫にするといっても、やってくるのは、離れの一部屋だけ。母屋に連れて行くのは、問題があった。
母屋の周りには、猫と見れば、寄ってたかって襲い掛かる恐ろしい犬が三匹もうろついている。
そんな場所には危険で、連れて行けるわけがなかった。当分は離れの一部屋だけがカムの居場所だった。