一流国の証2


実に様々なことが原因で飛行機は墜落する。大別すると、操縦士たちによるヒューマンエラー、飛行機そのものの故障によるもの、航空管制の間違いなどがある。
一見ヒューマンエラーと見えて、その実、事故機を運営する航空会社に原因の大元があるという場合がいくつかのエピソードで見られた。
あるエピソードでは、機体が着氷の影響と思われる失速を起こし墜落。しかし、フライトデータレコーダ(FDR)の解析により、機体が失速を起こしかけたときに、操縦士が操縦かんを押して機首を下げなければならないのに、逆の操作を行ってしまったことが原因と判断された。
明らかなヒューマンエラー?普通ならばここで事故調査は終わりかと思うところだが、国家運輸安全委員会(NTSB)の調査官はこんな結論で満足はしない。
飛行機のもうひとつのブラックボックス、コックピットボイスレコーダ(CVR)には、操縦士と副操縦士の会話が録音されている。その中に、奇妙な音が録音されていることに調査委員は気がついた。操縦士たちのあくびが録音されていたのだ。
その後の委員会の調査は綿密を極める。当日の操縦士と副操縦士の行動が、知人たちへの取材で分単位で再現された。
そして、両者がともに、短時間の雇われ操縦士と副操縦士だったこと。航空会社の経営難で、操縦士たちに給料が長い期間に亘って支払われていなかったことなどが明らかとなる。
また、副操縦士の給料が恐ろしく低く、糊口を凌ぐため、深夜に及ぶアルバイトをしないと喰っていけないことなども明らかとなる。
操縦に責任を負う二人が二人とも、疲労と睡眠不足に悩まされていたのだ。
まともな操縦などできる状態ではないときに、着氷による失速警報がコックピットに響いた。
半分寝ぼけていた操縦士にこんなときに適正な操縦ができるはずがない。機体はあっという間に失速、乗客乗員全員が死亡した。
日本で同じ事故があった場合、同じような調査が行われるだろうか。事故が起きた場合、まずもって犯人探しに熱心な国柄だ。
ヒューマンエラーがはっきりした時点で、調査は打ち切りだろう。
ちなみに、この事故の調査を行ったNTSBだが、米国のほかの行政機関とは関連のない独立組織で、司法による捜査に先立って事後現場を検証することのできる権限を有している。
このあたりも日本などとは大違いだ。