一流国の証3


1991年7月にサウジアラビアのジッダで起きた墜落事故は悲惨を極める。
墜落によって乗客乗員全員が死亡したこの事故では、墜落する前に、乗客の多くが、発生した火事の炎に生きながら焼かれたのだ。
焼け付くような暑さのジッダのキング・アブドゥルアズィーズ国際空港を今まさに飛び立とうというナイジェリア航空2120便は、ナイジェリアからメッカへ巡礼に向かう200人を超えるイスラム教徒を乗せていた。
管制官の誘導ミスのため、出発に若干の遅れが出たものの、2120便は行く先のソコトに向けて離陸を開始した。
滑走路を滑走中、左脚のほうから何かが破裂するような音がした。しかし、機体の速度はすでに着陸を中止できないV1を超えており、機長は離陸する。
離陸後、ランディングギアアップ。しかしこれがこの機の運命を決定付けた。
離陸のときの大きな破裂音は左脚のタイヤのひとつが破裂した音だった。タイヤが破裂しむき出しになったタイヤホイールが滑走路との摩擦で激しく火花を上げる。この火花が破裂したタイヤに引火して炎を上げた。
しかしこの炎はコックピットからは見えない。見えていれば、機長はギアアップしなかったに違いない。
破裂したタイヤに火がついたまま、脚が格納され、火が脚格納部に引火する。煙が客室内に侵入し、そのことに客室乗務員が気がついた。
チーフパーサが消火器を持ってきて消火しようとするが、火元は客室から離れた脚格納部だから、消火剤が届かない。
火災が飛行中の飛行機で起きた場合、ちょうど火災の際に強い風が吹いたときと同じようになり、火が瞬く間に大きくなる。
客室に炎が広がり、乗客たちは客室前方に逃げようとするが、火はどんどん追ってくる。もはや逃げ場がない。
その間に、機長は緊急着陸のために離陸した空港に戻ろうと機を旋回させる。目の前に空港が見えたときにはもう機体後部全体が炎に包まれていた。
それでも機長は着陸させるため、ギアダウンしたが、もともと火元が左脚格納部であったため、このギアダウンの操作で機体後部がバラバラに崩壊し、乗客たちは崩壊部分から空中に投げ出された。
そして、機も空港手前で墜落炎上。離陸前に給油した大量の燃料に引火して大爆発を起こした。
なぜタイヤが破裂したか。それは出発前の空気圧チェックで左脚タイヤのひとつの空気圧が基準を満たしていないのにもかかわらず、フライトマネージャーは空気充填のために時間がとられるのを嫌い、出発許可を出し、チェック項目の空気圧の数字が改ざんさせたためだ。
この犯罪的とも言える改ざんのため、機関士も操縦士たちも空気圧が足りないことに気がつかない。
離陸直前のチェックで、主任整備士が空気圧が足りないことに気がつき、急いで空気を充填しようとしたが、運の悪いことに、利用できるボンベがなかった。
タイヤのひとつだけが空気圧が足りないと、そのタイヤに機体の重量が他のタイヤより多くかかる。
焼け付くような滑走路の熱と離陸時の摩擦熱とがそのタイヤの耐久性の限界を超えたとき、タイヤは破裂した。
なぜフライとマネージャーは空気圧の数字の改ざんをしてまで、フライトの許可を出したのか。
それは、航空会社の経営体質が大きく影響している。航空会社、とりわけ格安航空会社の場合には、フライトの効率が何よりも優先される。
フライトの遅れは多大な損失を招き、経営を圧迫する。コストダウンと、フライトの効率。常にこの二つのプレッシャーにされされている航空会社は、少々の安全基準不備を無視する傾向にあるのだ。
こうした経営方針がフライトマネージャをして、タイヤの空気圧の数字改ざんに走らせた。
航空会社の経営体質がナイジェリア航空2120便の乗客乗員全員を火あぶりの刑に処したのも同然である。