火星へ#1

小惑星探査機「はやぶさ2」を載せたH2Aロケット26号機が打ち上げられたのは、12月3日のこと。「はやぶさ」の奇跡の帰還に日本中が沸いたことも記憶に新しく、後継機の打ち上げに、日本人の多くが関心を寄せたに違いない。
しかし、私の関心はそちらよりも、12月5日の打ち上げられたアメリカの新型宇宙船「オリオン」の打ち上げのほうに向けられた。
このアメリカの宇宙船は2030年代の火星有人探査を目指して開発中のものだ。
今回の打ち上げは人を乗せての打ち上げに先立ち、宇宙船の機能を確かめるための試験飛行である。
はやぶさ2のミッションは太陽系の起源・進化と生命の原材料物質を解明するため、C型小惑星「1999 JU3」から、サンプルを採取し、地球に帰還することにある。
地球の生命の誕生には小惑星が深くかかわっているとされ、小惑星は太古の状態そのままにいわば冷凍保存された状態なので、そのサンプル解析することが生命誕生のなぞを解き明かすことにつながる。
ミッションの意義は、大変分かりやすく、数年後のはやぶさ2の帰還が期待される。
一方、アメリカの新型宇宙船を使ってのミッションは一体なんであろうか。
人類を火星に立たせること?
立たせて、それがどう意味がある?
かつて、ケネディ大統領は、アメリカとソ連との対立関係を、多くのアメリカ人の関心を宇宙開発の方向にそらすことで緩和させようとした。最終目標は月へ人類を送り込むこと。アメリカの技術力を世界に知らしめ、同じ競争をするなら、軍拡競争ではなく、平和的な宇宙開発で技術を競い合えばよいという、ケネディ大統領の思惑通りの展開となった。
しかし、今日、かつての冷戦時代のような、アメリカと他国の緊張関係があるわけではない。
はやぶさ2と同じような生命起源の探査というのなら、なにも有人宇宙船を飛ばす必要はない。
探査が目的なら片道3年もかかる旅に、人を乗せた巨大な宇宙船を飛ばすどんな必要性があるのか。
こうした疑問を持つ人はきっといるはずだ。
オリオンの打ち上げを伝えるニュース番組を見ながら、私はずいぶん以前のブッシュ大統領の演説を思い出した。
ブッシュ大統領といっても、今のオバマ大統領の前の大統領のブッシュではなく、その父親、ジョージH.Wブッシュのほうだ。
その演説はニュース番組で一部が放送された。ほんの一部だけだったので、演説の内容の翻訳字幕は出なかった。
しかし、その放映された演説の中で、大統領は耳を疑うようなことを語ったのだ。
今回この記事を書くに当たって、そのときの演説がネット上にアップされていないかと、検索してみた。
そして、それはあった。

演説が行われたのは、1989年7月20日、場所はワシントンDC。アポロ11号の月面着陸20周年を祝う式典でのことだ。