火星へ#4

もうずいぶん以前のことなので、細かいところまで記憶しているわけではないが、ジョン・グレンは次のような趣旨のことを述べた。
「太陽の周りを回る天体の中に、小惑星と呼ばれるものがたくさんあります。これらの天体のうちのどれかが、いずれは地球に衝突します。この衝突を人類は避けることができないのです。そうなると、これまで人類が築いてきた文明は多大な影響を受けます。人類そのものが絶滅するかもしれません。
これを避けるには、地球以外の天体に人類のバックアップをとっておく必要があるのです。有人の宇宙船による探査は、地球以外の天体に人間送り込むために必要不可欠なのです。」
なんと、人類絶滅という、最悪のシナリオを現実的なものとして捉え、それを防ぐための宇宙探査だというのだ。
この考え方は、何もジョン・グレン独自のものではなく、現NASA長官のチャールズ・ボールデンが、火星有人探査の必要性に関して、同様の発言をしている。
小惑星が地球に衝突するかもしれないという話題といえば、2029年に衝突の可能性があるものとして、アポフィスという小惑星が有名だ。
アポフィスの直径は325m。これが衝突しても、全人類の絶滅という事態にはならないだろうが、例えば太平洋に落下したら、その影響は南海・東南海地震による津波など問題にならないぐらいの巨大津波を生じさせることだろう。
これが、もっと大きな小惑星であれば、その被害は想像を絶するほど大きくなる。
NASAによれば、地球に衝突する可能性のある小惑星の数は4,700ほどもあるという。
天文学が発達した現代であれば、危険な小惑星の接近を事前に察知することはそれほど難しいとは思えないのだが、小惑星は観察の対象が小さく、暗いので、正確な軌道が分かりづらく、衝突についても確率的な予測になるようだ。
それよりも、接近がはっきりした時点で、たとえば核弾頭で迎撃すればいいようにも思う。
しかし、その方法はうまくいかないらしい。核弾頭をつんだ宇宙ロケットで小惑星にうまく当てることができても、小惑星が消えてなくなるわけではなく、大小さまざまな破片になっても、軌道がそのままで地球に衝突すれば、地球はマグナム弾の替わりに散弾を食らったようなもので、やはり甚大な被害を受けるという。
映画アルマゲドンでは、粉々になった小惑星が最後は無数の流星となって地球に降りそそぐシーンがあったが、ああはうまくいかないのだろう。
それでは、小惑星が地球に衝突する可能性はどのくらいあるのかというと、たとえば、この先100年という長い年月で見ても、きわめて小さいもののようだ。
それにもかかわらず、アメリカは、膨大な国家予算を使ってまで、他の天体に人類を送り込もうとしている。
他の天体に人類のバックアップを取っておくという理由は最悪の事態を想定するなら、納得いくが、これには、別の意図があるのではないかと私は疑っている。