知性が大事#32

ざわつくタイ人生徒に対して担任は私の話の内容に関して判りやすく説明を始めた。
「今の話に出てきた"chlorofluorocarbon"というのは、スプレーなんかに使うガスのこと。聞いたことない?」
「・・・・・」
「じゃ"the ozone layer"は知ってる?これがあるから、有害な紫外線が地上に降りそがないの。」
「・・・・」
「有害な紫外線が多くなると皮膚ガンの原因になるって知らない?」
「・・・・」
担任はあまり英語が得意でないタイ人生徒にも分かりやすく説明しようとしたが、彼らは担任の投げかける質問に対して無反応だった。
日本ではフロンガスやオゾンホールのことは新聞の記事やニュースでも取り上げていたが,それでも平均的な高校生がこうしたことに関心を持っていたかどうかは分からない。
タイでは、オゾンホールのことはニュースネタにもなっていなかったのかもしれない。
この日の授業が終わった後。担任が私に近づいてきて、ちょっと話があるから一緒に校長室についてきてといった。
何かと思って付いていくと、校長が笑顔で迎えてくれた。校長室には校長以外に男性が一人いた。
「ハロー。元気でやってる。授業は楽しいかしら。」
「ええ、楽しくやってます」
「そう、それは良かったわ。でも授業の内容はあなたには物足らないのじゃない?担任から話は聞いたわ。他の生徒たちとはレベルが違い過ぎるって。」
「いや、そんなことは別に気にしていませんが。」
「でもせっかくの機会だから、あなたに相応しいクラスで学んだほうがいいんじゃないかって思うの。」
「はあ。」
「オーストラリアの大学に進学する予定の生徒たちのクラスがあるわ。もちろんあなたにはそういう予定はないことは知っているわ。でも、あなたのような人がクラスに加わることがクラスにとってとてもいい刺激になると思うの。あなたにもきっとプラスになると思うわ。」
「はあ。」
「こちらは大学予備科の担任のスコット。彼の了解はすでに取ってあるわ。あなたがよければ、明日からでもそのクラスで学んでもらえるわ。」
そういって校長は傍らに座っていた男性を私に紹介した。
がっしりした体つきの30代の男性。年の割には髪の毛が少々寂しくなっていたが、きりっとしたハンサムだった。
校長の言うとおり、今のクラスでは少々私には物足りないと思っていた。ちょっと考えて校長の提案を受け入れることにした。
「エー、それでは、校長先生の提案どおりにしたいと思います。」
「それがいいわ。そうしなさい。」
校長がこういうと、スコットが握手を求めてきた。がっしりとしたごつい手と握手を交わした。
さて、学習の初日を終わって、クラスを変わることになった。クラスは高校卒業した人たちが対象だから,クラスメートの年齢も今よりも上になる。
少しは知的レベルの高い話ができるのではと期待が高まった。