日本人の英文解釈7

今回の課題文は次の通り。

P6
"Well, we've been thinking about it for some time---all winter in fact," returned Marilla.
訳文例: 「だけど私たちはそのことについて時々ずっと考えてきたの。じっさいふゆじゅうね。」とマリラは答えた。

課題文は一見、どうということのない現在完了進行形の文。訳も訳文例で特に問題はない。訳文例中の「時々」はsometimesとsome timeを取り違えたもので、正しい訳は「かなり長く、かなりの時間」というような意味。
課題文に選んだのには理由がある。それは、現在完了進行形の基本的意味というか、どういう場合に使うべき時制なのかに関して日本人のほとんどはきちんと理解していないからだ。
学校英文法では、現在完了進行形は「ある動作が過去のある時点から現在にいたるまで継続している」ということだ。
これはこれで決して間違いではないが、この時制はある動作がもう終わっている場合もよく使われる。
この事に関して英文法解説(江川泰一郎)では、241ページの現在完了進行形の項目(2)として次のように解説している。

(2) 少し前に終わった動作
  He shouldn't drive this evening. He has been drinking.
(彼は今晩は車の運転はよすべきだ。ずっと酒を飲んでいたのだから)
I don't feel like going this evening. I've been working in the garden all day.
(今晩は外出したくありません。一日じゅう庭仕事をしてい[て疲れ]ました)

この解説では、(2)の用法がどんな時に使われるのか、それがはっきりしない。
文法書はこの場合に限らず、一つの時制に複数の用法がある場合、その使い分けまでは説明しない。実用的な説明がないから、結局役に立たない知識と批判されるゆえんだ。
(2)の用法は学校英文法では触れられていないかもしれない。話がややこしくなり、生徒が混乱するだけだろう。
この用法に関しては次の解説が参考になる。

11. 現在完了進行形の用法
〜現在完了形とどう使い分けるか〜
いきなりですが、次の2文の意味の違いは何でしょう。
(a) I've eaten the chocolate you gave me.
(b) I've been eating the chocolate you gave me.
私が教えている学生のほとんどは、「(a)の文ではチョコレートは全部食べつくされてしまって、1個も残っていない」と答えることができるでしょう。しかし、(b)の文に意味についてはっきり自信を持って答えられる人は、(a)の文ほど多くはないのではないでしょうか。
中には「(b)の文ではチョコレートはいくつかまだ残っている」と、当てずっぽうを言う人も出てきそうです。そして、それは当たっている場合もあれば、外れている場合もあります。つまり、確かにまだ何個か残っている可能性はありますが、(b)の文からははっきりとはわからないのです。とすると、(b)のような現在完了進行形の文は、何のために用いられるのでしょうか。


話し手の伝達内容の違い
現在完了形と現在完了進行形の違いというのは、基本的には、話し手がどんな情報を伝達したいかという問題と関係しています。現在完了形が伝えたいことは、「表現された行為」そのものではなくて、「その行為が終わっているという事実」のほうです。言い換えれば、「行為の終了がもたらす結果」です。つまり、上の例でいえば、もうチョコレートは残っていないということです。一方、現在完了進行形が伝えたいことは、その行為それ自体です。その行為がもう終わっているかどうかは重要ではありません。
この違いを説明するのにチョコレートよりももってわかりやすい例文をあげましょう。
友人とばったり出くわしたと想定してください。あなたの両手は汚れ、シャツはぐしょぐしょに濡れ、髪の毛にはワックスがべっとりついています。あなたがいつでもこのような外見なら話は別ですが、ふつうは、なぜそんな格好なのか相手に説明したいと思うでしょう。そのような場合、次のように言うのが適切です。
I've been cleaning the car.
(注意: my carよりもthe car と言うほうが慣用的です)

同様に、先程の(b)の文を使えば、なぜあなたの顔じゅうにチョコレートがついているのかを説明することもできるのです。要点は、洗車が終わっているかどうか、そしてチョコレートが食べ尽くされたかどうかは問題ではないということです。
(T.D.ミントン著日本人の英文法(研究社)P60から抜粋)

解説はこのあとも続くが、その説明をずっと読んでいっても、肝心の現在完了進行形で何を伝えたいかが、かえってよくわからなくなる。
私自身の解釈でその点を要約すると、
1. 現在完了形は、ある行為が終わったことによる結果の状態が今もそのまま存在する
2. 現在完了進行形は、ある行為がもたらす結果の状態が、今もそのまま存在する
ということだと思う。
どちらも同じように見えるが、1.の方は「行為が終わっている」つまり、完了している。一方、2.の方は終わっているかどうかはわからない。ということだろう。