日本人の英作文2016-12

さて、今年の英作文、第2弾は2014年12月27日付けの読売新聞の夕刊に掲載された童話、「キツネのハンカチ」。
その前半は次の通り。

「キツネのハンカチ」
山のふもとに、「平井洋裁店」と看板のかかった仕立屋さんがあります。
小さなお店のショーウィンドーのおくからは、カタカタと、古い足ぶみミシンの音が聞こえてきます。
ミシンをふんでいるのは、年をとって、すこし背中のまるくなった平井さんです。
冬のある日のこと。朝からふきあれた北風がやんで、空がキーンとすみわたりました。
暗くなると、空いっぱいに星がかがやいて、いまにも光のしずくが落ちてきそうでした。
その夜おそく、平井さんが仕事場で、古いコートを仕立て直しをしていると、お店のドアがなりました。
時計を見ると、もう十時です。
(こんな時間にだれだろう?)
平井さんは、ドアをあけて、ぽかんとしました。大きなエプロンをしたキツネがたっていたのです。
「夜分おそくすみません。あかりがついていたので、ノックしてしまいました。ちょっと、ここをなおしていただけませんか?」
キツネは、中に入ってきてエプロンをはずすと、エプロンのまんなかについているポケットを見せました。
「とてもたいせつなものをいれるポケットなんです。とれないようにしっかりぬいつけてください」

今回の課題部分は、「…すこし背中の丸くなった平井さんです」の部分まで。
訳文例は次の通り。

訳文1
Fox's Handkerchief
There's a small tailor's shop at the foot of a mountain. The sign reads "Hirai Talor's." You always hear the old manual sewing machine cluttering from behind the show window. The stooped old tailor, Mr. Hirai, works on the machine.
訳文2
There is a tailor with a signboard saying, "Hirai Dressmaker" on the foot of a hill.
The sound of an old sewing machine with a foot treadle comes form the back of the show window. It is an old woman with a little arched back, Ms Hirai that is using the machine.

"Once upon a time"で始まるのがおとぎ話や童話の定番。この話もそういう観点でとらえれば、"There is"ではなく、"There was(used to be)"で始めればよい。
しかし、訳文1、2のように、現在形で表しても、特に問題はなさそう。
レッスンの時、議論になったのは、訳文2の"It is an old woman with a little arched back, Ms Hirai that is using the machine."
この文にはいくつかの問題点がある。
まず主語にあたる人物が、男性か女性かという点。元ネタの記事に添えられたイラストはどう見ても男性。
まあ、だからと言って、平井さんを男性と断定できる根拠はここまでの本文には見当たらないから、どちらでもいいだろう。
この点を指摘すると、訳文2の作者は次からは、男性にしますといったから、イラストには全然目もくれず訳文を考えたようだ。
続いて、"with a little arched back"の部分。
この表現だと、どう見ても、「小さな曲がった背中」としか取れない。「小さな背中」って何?。それに、元の「すこし背中のまるくなった」と意味が違っている。
訳者は"a little"は"arched"にかかる副詞だと主張したが、それでは、可算名詞のbackを先導する不定冠詞はどうするのか。
副詞の"a little"は被修飾語の後につけるのが普通。
もっと問題なのが、全体の構造がいわゆる強調構文になっている点。
この点も訳者に問いただすと、元の日本語が「〜する(した)のは…だ」という表現だったからといった。
これは、「〜している」と日本語にあれば、手拍子で進行形を使う誤りと同質、同根の間違い。
この点を説明し始めると長くなるので、別記事で取り上げることにする。
肝心なのは、強調構文の強調ということを全く理解していない点。ほかに登場人物が出てきていないこの時点で、「平井さん」を強調する必然性は全くない。
訳例
There is a tailor shop at the foot of a mountain, whose signboard says "Hirai Tailor shop."
You can hear the sound of an old treadle machine cluttering from the back of the show window.
Mr. Hirai、whose back is bent a little with age, works on the machine.