8月の別れ 1

それは5月連休明けの頃に始まった。
迷子猫のことで知り合いになり、近くの公園に捨てられた子猫がいると連絡してきたことのあるAさんから電話メッセージが入っていた。
不在のようなのでまた連絡しますとのメッセージで、用件については言及していなかった。
しかし勘のいい私は、用件は飛べない子スズメを保護してほしいということだろうと感じた。
再度の連絡を待たず、こちらから電話をかけてみたところ、用件は思った通り。
じゃーこれからそちらに伺いますとAさんの家まで行ってみると、側溝に巣立ったものの飛べずにいる小雀が一羽。
Aさんによると、飛ぶ力が足りず、飛ぼうとしても道路に落ちてきてしまうとのこと。
そのままだと確実に車にひかれる。そこでAさんに捕虫網を借りて子スズメを捕獲。家に連れ帰った。
巣立ちが終わっているスズメには、もう親の顔は刷り込まれているので、家で保護して育てたとしても手乗り文鳥のようにはならない。
十分に飛ぶ力がつけばその時点で放鳥するのが普通だ。しかし体に障害、とりわけ足指に障害のあるスズメが多く、その場合は、放鳥しても生きていけないのでそのまま飼うことになる。
連れ帰ったスズメの足を調べたところ、左足の指に異常があり、これがうまく巣立ちできなかった理由だろうと思われた。
一方、右足には異常がなく、保護して十分な体力がつけば、放鳥も可能だろうが、そのまま飼うことになるかもしれない微妙な足の状態だった。
親の顔を覚えている子スズメに、最初にエサを与えるにはコツがいる。簡単に言うと強制給餌。くちばしをこじ開けて無理やりエサを与えるのだ。
エサは手乗り文鳥のヒナに与える流動食。
注射のシリンダーにビニールチューブをつけた、手乗り文鳥のヒナに給仕するための道具があり、これを使って、パウダー状のえさを水で溶いたものを与える。
子スズメは自分から進んでこんなエサは食べないから強制給餌。これにはコツがいる。
そこはこれまで何度もこうした子スズメを保護してきた私。難なく給仕できた。
何度が強制給餌をすると、子スズメの方でも慣れて自分からチューブに食らいつくようになる。それまでは無理やりの給餌が続くことになる。
一応、その子スズメにはピーコタンという名前を付けた。ずっと飼うことになるかもしれなかったからだ。