ダルマインコの里親探し9

自分で自分の羽根をむしってしまう症状。これを自咬症(じこうしょう)というらしい。

症状名の二つ目の漢字なんぞ、ツキちゃんの診断をしたドクターが手渡してくれた説明のためのパンフレットで見るまで、見たこともないものだった。

しかし、この症状、インコやオウムにはよくあることらしく、インコ・オウムの飼育者の間では常識に類するものということも、追々分かってきた。

ツキちゃんの異常を最初に見つけたのは、例の8人密集のときにやってきた男の子の一人だった。その子は家の向かいのうちに暮らすケンちゃん。

毎日毎日、プロ野球選手を目指してトレーニングに明け暮れる小学2年生。その子が真っ先にツキちゃんのクビの前の部分の皮膚がむき出しになっていて、そこに血がにじんでいることに気がついたのだ。

他の7人はそのことを指摘されるまで、全くそのことに気がつかなかった。

野球のトレーニングが物事に対する観察眼をも鋭くさせたのかどうかは分からないが、

この指摘がなければ、この後しばらくはツキちゃんの自咬症に気がつかなかっただろう。

なるほど指摘された部分をよく観ると、羽根がなくなっていて、さらになにやら赤いものが見えた。

出血しているとなるとただ事ではないと思い、次の日に行きつけの動物病院に行って、ツキちゃんを見てもらえないかと相談すると、その病院では野鳥保護のための診療や治療はするが、いわゆる飼い鳥は扱っていないという。

どこかいい病院はないかとたずねたところ2件の鳥専門病院を紹介してくれた。

T市の病院が交通のアクセスもよく、ここにツキちゃんを連れて行くことにした。

その病院で担当になったドクターは若い女の先生。症状がでたのは環境の激変である可能性は高いとのことだった。

治療は言ってみれば対症療法。くちばしで咬んで羽根をむしるのだから、むしる場所を物理的ガードで守ればよいというもの。

原因が精神的なものだから、治療が長引くことが多いという。

鳥を引き取っただけでも厄介なことになったと思うのに、さらに、ストレスが原因で病気になってしまった鳥が出たことに、「本当にも踏んだり蹴ったり」、「泣きっ面に蜂」というような言葉が頭に浮かんでは消えた。