日本人の英文法14

助動詞willを使う場合が、状況別に詳しく説明されているのは、使い方を頭で理解するうえでは、好都合だが、会話などで実際に運用していく上では、逆に厄介だ。
ネイティブのように、実際の運用場面で、実地に覚えていくわけではない日本人にとって、いくつものwillの使用例を場面別に全部覚えて、実際の会話で瞬時に的確に使うなど、まず出来るようにはならない。
単純な原理を一つだけ覚えて、その原理に従って、実際の運用を図るのが精一杯だろう。
そこで、先のwillの8つの使用分類のうち、2を除く7つに、共通の使用原理がないかを考えてみる。
最初の分類区分1の「その場ですると決めたとき」というのをよく考えてみると、これは、おかしな定義の仕方であると気づく。
なぜなら、その場ですると決めるというが、「その場」というのがそもそもあいまいだ。
「日本人の英文法」では、この分類に関して、次のような会話例を挙げている。

A: Bob isn't here yet, is he? I'll go and look for him.
B: Don't bother. I'll phone him. If he's not in his office, we'll start the metting without him.

この会話で使われたwillがすべて、「その場でやると決めた」時のwillなのだが、たとえば、それぞれのwillが使われている文の発話直前に、何らかの邪魔が入って、会話が中断したとして、改めて、会話を続けようとする場合、それはまだ、「その場」なのか、そうではないのかが疑問となる。
会話が中断したときに、その直前には、willを使って表現しようとしたことを、中断後の会話再開時には、もう「その場」ではないからといって、be going toを使っての表現に変えるとは到底思えない。
「その場」というのが、どういう状況をさすのかが分からない以上、「その場でやると決めたこと」という説明は、無効だ。
わたしが思うに、ある行為に対する強い実行要請があるときに、これに答えて使うのが意志未来のwillだといういうことだ。
実行要請を行うのが、対話の相手の場合、分類4の「お願いに対して答えるとき」場合で、自分が相手に要請を行う場合が、分類3にあたる。
要請を行うのは人とは限らない。先の例文の場合、"I'll go and look for him."というステートメントを引き出したのは、"Bob isn't here yet."という状況だ。
つまり、ある状況が即座の対応を要請したから、Aは"I'll go and look for him."と、意志未来のwillを使った表現で応えたと考えられる。
意志未来が実行要請に応える表現であるので、このステートメントを受け取ったものは、発言者がほぼ間違いなく、その行為を行うと思って良いことになる。