自己責任4

馬上で安定した姿勢をとるのは、乗馬経験のないものには大変難しいものだ。
自転車、バイクなどでは、跨った姿勢の安定には、両手と腰の3点バランスで行う。
しかし、乗馬では、両手はバランスを取るためには使えない。馬の進行動作にあわせて、腰を軽く上下させ前後のバランスをとり、左右のバランスは、両足で、馬体をしっかりとはさむことにより、とるようにする。
使ったこともない筋肉を使い、試したこともないバランス感覚で馬上の安定をとらなければならないので、大変な緊張を強いられるのだ。
そうした緊張感を抱えて、私たち一行は、乗馬コースを進んでいった。
馬上からの風景はこれまでに見たことのないものだった。目の位置が1m近くも高くなるのだから、違って見えるのも当然だ。
定まったコースをゆっくりと進むうち、最初の緊張感も薄れていき、高い目の位置からの風景を楽しむ余裕も出てきた。
何箇所かで、高い木の枝が目の前に垂れている所があり、手でそれを押しのけながら、進まなければならなかった。
後に続く人のため、払いのけた枝を急に離したりせず、注意を喚起しながらゆっくり手から放すようにとの指示があった。
決まったコースなら、じゃまな枝を切っておけばと思うのは日本人。オーストラリアでは、こうした箇所を乗馬のスリルを増すための、ちょっとしたギミックとして、わざと切らずにおくのだろう。
コースを進むにつれて、馬上でのバランスの取り方にもなれたころ、先頭を行くインストラクターが馬を止めた。
目の前にあったのは、林間を流れる小川だった。乗馬コースを横切るように流れている。小川といっても、水量を問題にするようなものではなかった。
問題は、小川の手前が、コースから少し下り坂になっていて、小川の向こう側がやや急な、落差が2m以上ある坂になっていることだった。
ここが今日の最大の難関、私が手本を見せるからといって、インストラクターはいとも簡単に小川を越えて、坂の上に馬を登らせた。
歩いてなら難なく渡れる小川が、馬上から見るとはるか下に見えて大変怖い。
インストラクターが、下りを怖がって、そろそろいくと、今度はのぼりの箇所を乗り越えられなくなる。
最初の下り坂のところから、勢いをつけて、一気に上り坂を馬に登らせるようにと指示した。
さっき初めて馬に乗ったばかりの初心者に、それをやらせるんかい。ええかげんにせーよわれ。
思わず大阪弁が出そうになった。