自己責任3

厩舎の前で待っている私たちの前に、馬が連れてこられた。連れてこられた馬は、サラブレッド。馬を間近で見るのは、その時が初めてだった。鞍がある場所が目の位置より高い。とにかくでかいと言うのが第一印象。
何れも馬も、初心者でも安心して乗れる優しい性格だと説明された。
まずは、乗ってみようということだが、目より高い位置にある鞍にどうやって跨るのか。
昔見た西部劇に、ローハイドと言うのがあった。牛追いのカウボーイが主人公で、出演の男たちはみな、地面から軽々とした動作で馬に跨っていた。
その時の光景を思い出し、地面からいきなり、鞍に跨ろうとしたら、インストラクターがそれはちょっと無理だろうと言って、私を止めた。
日本人の中でも背の低いほうの私が、クリント・イーストウッドのまねは土台無理だ。
鐙(あぶみ)が馬の横腹のところにあり、それに片足をかけて、もう片足はインストラクターが押し上げるようにして跨るのだという。
せっかちな私は、インストラクターが片足を支えるのを待たずに、鐙に片足をかけ、一気の動作で鞍に跨った。
オーというような声が周りから上がった。別に格好つけたかったのではなく、馬に跨る動作は誰に教わるのでもなく、できそうだったからだ。
参加者全員が馬に跨ったところで、馬に出す指示の言葉と、その時に行う動作をインストラクターが説明した。
前進と停止、右曲がりと左曲がり。それだけ説明すると、さあ出発だという。エーッ、いきなり出発?
試運転ならぬ、試し乗りをしないのかと思ったが、インストラクターは、馬たちはとても賢く、コースを知り抜いている。馬から落ちないようにしてさえいれば、後は馬が勝手に歩いていくと言った。
ここの乗馬クラブのコースは、自然の中を馬に乗って散策するというもので、初心者コースから、上級者用のコースまで、乗り手のレベルに合わせて、いくつものコースがあるという。私たちが向かったのは、当然のことながら、初心者用のコースだった。
それにしても、それまでに一度も馬に乗ったこともない者を、いきなり、トレッキングに使うような丘陵地帯の野道に連れ出すとは、日本では考えられないのではないか。
やり方が、ラフというか、ワイルドというか。まあ、それが海外経験の醍醐味でもあるのだが。