サボテンの首1

今年の8月25日、行きつけの医院に薬をもらいに出かけた。
お盆休み明けで、しかも土曜日。患者で混雑するのはわかっていたが、常用している薬が8月20日のすでになくなってしまっていたので、選択の余地がなかった。
医院の待合は思ったとおり、順番待ちの患者であふれていた。
待合室がいっぱいの時は、玄関ホールに椅子が置いてあるので、そこで待つしかない。
この玄関ホール、幅2m弱、長さ3mほどの空間で、東向き。東側全面ガラスで、真に日当たりがよろしい。
玄関ホールの椅子に腰をかけて、順番を待ち始めたのが午前10時ごろだったと思う。
日の出の頃から、たっぷりの日光を浴びて、温室さながらのガラス張りの玄関ホールの気温は優に40℃を越えていたろう。
吸い込む空気が体温より高いため、だんだん息苦しくなってきた。かといって、待つのを止めたら、薬を処方してもらえないから、待つしかない。
病院の待合で、熱中症で死亡なんてことになったらしゃれにもならない。
噴出す汗をぬぐいながら、ふと足元を見ると、そこには、大きなサボテンの鉢。親サボテンの周りから、小さな子サボがたくさん生えている、いわゆる群生サボテンが10号くらいの浅い鉢に植えられている。
サボテンにはちょうどいい暑さなのだろうななどと考えていると、あることを思い出した。
今から一年ほど前、やはり、順番待ちの患者が多くて、この玄関ホールで、診察の順番を待っていたとき、足元のサボテンの鉢を見るともなく見ているうち、あることに気がついた。
親サボの周りにある仔サボのひとつの色が妙に白っぽい。どうしてかと近づいて見ると、その子サボは、真ん中辺りから上が切り取ったようになくなっていた。
誰がこんなことをと思ったが、刺だらけのサボテンを手で折り取ろうなどという酔狂な人間もいるはずもない。
さらに顔を近づけて、鉢の付近を見ると、仔サボの頭の部分とおぼしき物が転がっていた。