リズム音痴2

「さらば青春」をうまく歌えないままだったあるとき、この曲の楽譜を見る機会があった。
楽譜を見てこの曲に関するある事実にとても驚いた。その事実とは、この曲のあちらこちらに、小節の最初の部分に、休止符がついていたことだった。
小節の最初に休止符?「ナンじゃこりゃ」というのが正直な感想だった。そんなものはそれまでに見たことがなかった。
私が学校の音楽の時間に習ったような、いわゆる唱歌や、クラシックの楽曲には、小節の最初に休止符などつけない。
後で分かったことだが、それはいわゆるシンコペーションの一種で、楽曲のリズムに変化をつけるための、一種の作曲技法だったのだ。
これも、調べて分かったことなのだが、楽曲の一要素のリズムには、オンビートとオフビートがあって、日本の伝統的楽曲は民謡、歌謡曲を含め、全てオンビートだということ。オフビートはソウルやジャズなどに使われているということだった。
その作曲技法が日本のポピュラーミュージックにも取り入れられようにもなっているということも分かった。
ある小節の出だしが半休止符の場合、通常のオンビートで歌いだすのではなく、半拍置いて歌い出さなくてはいけない。
これが、私が半テンポフライングしてしまう理由だった。
そんなリズムで歌ったことなどないものが、うまく歌えない理由が分かったからといって、うまく歌えるようになるわけがない。
その後も、「さらば青春」を歌う練習を重ねたが、やはりうまく歌えない。
そのうちに、どうせ大して好きな歌じゃないからうまく歌えなくても構わないなどという、「すっぱいブドウ」に似た理由付けで、私はこの曲の練習をやめてしまった。
歌唱力にある程度の自身があった私には、ある種の敗北感が残った。
そして、あることを自覚せざるを得なかった。すなわち、「自分はリズム音痴なんだ」ということを。