リズム音痴3

小椋佳の曲には、いわゆる歌謡曲にはない歌詞とメロディーがあり、それが私が彼の曲に惹かれた理由だったように思う。
さらに、リズムにも通常の歌謡曲にはないものがあったことも理由の一つだったかもしれない。
リズム音痴であるという事実はいたく私の自尊心を傷つけたが、小椋佳のほかの曲は問題なく歌えたので、リズム音痴の件はうっちゃって置いて何の支障もなかった。
私が好きな小椋佳の曲に「白い一日」がある。「まっ白な陶磁器を眺めては飽きもせず、かといって触れもせず、そんな風に君の周りで、僕の一日が過ぎてゆく」という出だしから、通常の歌謡曲とはまったく違う感性の世界が広がっていて、曲調とも相俟って、とても好きな曲だ。
余談になるが、歌手のTは、この出だしの「陶磁器」を「掃除機」だと思い込んでいて、「さすがは小椋さんだ。掃除機を一日中眺めていて飽きない感性を持っている」と感じていたそうだ。
確かに、掃除機を眺めているだけで、それを使って掃除もしない感性は、並外れている。
「さらば青春」の件から月日は流れて三年三月、自分のリズム音痴とまた向き合わなければならない時が来た。
きっかけは、テレビコマーシャルに使われた井上陽水の「少年時代」だった。
楽しかった自分の少年時代を否応なく彷彿とさせるこの曲を、自分もカラオケで歌いたく思い、陽水のレコードを買い、さらに陽水の曲をフィーチャーしたカラオケ練習用のカセットテープを買い、車を運転する際には必ずこれをかけて、車内で歌の練習をした。