リズム音痴5

さて、私は昼食のあと、小堺一機の「ごきげんよう」を見ることが多い。
大きなサイコロを振って、それぞれの面にお題が決められていて、ゲストがそのお題に沿ってトークをするという番組だ。
あるとき、ロック歌手のOがゲストとして出演した折、サイコロの目が「今だから言える話」になった。
「もう時効だから話してもいいと思うんだけど」と前置きをして、彼が話したことは次のようなことだった。
彼がデビュー当時に、人気の音楽番組といえば「夜のヒットスタジオ」で、この番組に出ることが一流の証だと思っていた。そして、ついにその機会を得て番組に出演することになった。
この番組の特徴は、出演者の紹介を別の歌手がその人の持ち歌を歌って紹介するという点だ。
私の記憶によれば、アイドル系の歌手が演歌歌手の紹介をする場合に、その歌唱力のなさを晒してしまうことが多かったように思う。
しかし、その時は、その真逆のことが起きたようだ。大物演歌歌手、その名前をOは明かすことがなかったので、仮にAとしておく。
そのAが、当時のポップ系人気グループ、プリンセスプリンセスの紹介をするため、彼女たちの持ち歌を歌おうとしても、歌の出だしがまったく分からない。
それで、出番待ちだったOに、歌の出だしを体をつついて教えてくれと頼んだ。
しかし、合図を送ってもらっても、それに反応するのに少しかかるから、当然ながら歌いだしが半テンポほどずれる。
そして、その後、AはOに、スタジオの隅で、「うまく歌えなかったのはお前が悪いからだ。覚えてろよ」と凄んだそうだ。
Aが歌の出だしのポイントをつかめなかった理由は、私が「リバーサイドホテル」の出だしをつかめない理由とまったく同じだ。
演歌には、オフビートもシンコペーションもない。演歌のみを歌ってきたAには、ポップ系のミュージックのリズムは、まったくついていけないものだったのだ。プロの歌手、それも歌唱力では定評のあるAですら、リズム感は私と大差ないのだ。
この事実はリズム音痴であることに忸怩たる思いを抱いていた私を大いに安心させた。