知性が大事#10

オーストラリアの夏の日差しは強烈で、空気が澄んでいる分、紫外線の強さが日本とは比較にならない。
そのことは十分分かっていたので、朝、ケンの農場に出かける前に顔や手にはたっぷり日焼け止めを塗っていた。
しかし、脚はというと皮膚の柔らかい大腿部や、足の甲にはそこそこ日焼け止めを塗っていたが、ひざ小僧の真裏や、その先のすねの部分にはほとんど塗っていなかった。
そんな場所に太陽の光が当たって、日焼けを起こすなど考えもしなかったからだ。
しかし農場での生活を始めて数日が経った頃、夜になってなんだか脚全体がひりひりするなと思って、足先を見て驚いた。
足先全体が腫れ上がって、くるぶしが見えないほどになっている。一番痛みがひどかったのが、日焼け止めを塗っていなかったひざ小僧の裏側。
一体なんだってそんなところが痛むのか最初は見当がつかなかった。
しばらく考えてみて、理由が分かった。直接太陽の光が当たらなくても、地面の反射で十分日焼けを起こすらしい。
やはり日焼け止めは肌が露出する場所すべてに、くまなく塗らなくてはならないのだ。
「怪談」耳なし芳一の経文じゃないけど、日焼け止めを塗らなかったひざ裏を太陽光線は攻撃してきたのだ。
それに気がついて、次の日からは日焼け止めはくまなく塗るようにしたら、数日で足の腫れはひいた。
同じ頃だったと思うが、ケンが夏休みで帰郷する娘を迎えに行ってくるといって車で出かけた。
ケンの家族には、ケンとベス、息子のマイクのほかに娘(仮に名前をルーシーとしておく)がいたのだ。そのことはマイクから一言も聞いていなかった。
何でも、州都パースにあるパース大の学生らしい。
日本では大学生といっても珍しくもないが、大学進学率が数パーセント台のオーストラリアでは、大学生はまさしくエリートだ。
大学に進学した娘は両親にとって自慢の種に違いない。あんまりしっかりしていないマイクのお姉さんが学業優秀というのもちょっと意外ではあった。
ケンがルーシーを迎えにどこに行ったのかは分からなかったが、程なくしてケンが戻ってきたことが家の外の気配で分かった。
帰ってきた家に(正確には庭に張ったテントに)、来客がいるとケンが伝えたのだろう。マイクとともにルーシーが私のところにやって来た。
英会話にあるような通常の挨拶が交わされるかと思いきや、ルーシーは私を見るなり大きな声を上げて笑い出した。