知性が大事#19

フリーマントルに行くために使った鉄道。これがなんとものろい。確か電車ではなく、ディーゼル車だったと思うが、時速はせいぜい30kmほど。ちょっと早い自転車並み。
車両も恐ろしくおんぼろで日本の鉄道車両を見慣れた目からすると、こんなのまだ使ってるのという代物。
扉も駅に着いたら、乗客が自分たちで開けるという日本では考えられない方式。まあ、時速が時速だから、走行中に誤って転落しても死ぬことはない。
フリーマントルの駅に着き、そこからは武田荘まで徒歩。武田荘で応対に出たのが管理人の武田氏。
確か上半身裸、短パン姿だったと思う。「こんな格好で失礼します」といったかどうか忘れたが、私は武田氏の鍛えぬかれた肉体に見とれてしまった。
「電話をかけてこられたとき、トレーニング中で、応対できませんで、申し訳ありませんでした」
「トレーニング中って、何かの競技に出られるんですか」
「ええ、トライアスロンってご存知ですか。パースで近々、トライアスロン競技会が開かれるので、それに備えてトレーニングの最中なんです」
トライアスロンは、その頃まだ日本ではマイナーの競技だったと思うが、オーストラリアでは全国各地で競技会が開かれるほどの人気スポーツで、一年中、オーストラリアのどこかで試合があるという。
武田氏の体は上半身が著しく発達していて、トライアスロンのためのトレーニングだけでは、絶対につかないところに筋肉がついていた。
広背筋が大きく発達し、あばら骨のところにある前鋸筋もくっきりと見える。
ボディービルダーに似た体型だが、それともちょっと違っている。聞いてみると、大学時代は器械体操の選手で、卒業後は高校の体育の先生をしていたそうだ。
何かのきっかけで知ったトライアスロンにはまって、本場のオーストラリアに渡ってきて、年中トライアスロンの練習ができる環境に自らを置くことにしたそうだ。
武田荘に電話をかけたときに電話に出た女性はダイアンといって、武田氏と同棲しているという。
武田氏の身長は私と同じぐらいか、少し低いぐらいだから、背は高くないが鍛えこまれた肉体と、ハンサムな顔立ちの持ち主。
外国人女性にもこれは魅力があるのだろう。やっぱり、外国でも一見栄、二男なのだ。
「こちらに泊まりたいのですが」というと、相部屋でかまわないなら、空いているというので、その場で即決。
その部屋に案内してもらった。相部屋のパートナーはというと、日本からやって来たウィンドサーファーだという。
手荷物を下ろし、ベッドに寝転がって人心地。
民宿によくある共同ホールに行ってみたが、ほかの宿泊客は誰もいなかった。
そのとき宿泊していたのは、ウィンドサーファーが二人、ボードサーファーが一人の三人だけで、彼らは三人とも朝早くからビーチに出て、サーフィン三昧。夕方まで帰ってこないという。