知性が大事#21

夕食の準備ができて、サーファー3人と一緒に食事をした。
「同じ釜の飯を食ったなかま」という表現があるが、一緒に食事することで心理的距離がぐんと縮まるというのは本当だろう。
サーファーの3人と、お互いに自己紹介しあった。
夕食の準備をしてくれた田中はウィンドサーファー。もう一人のウィンドサーファーを佐々木としておこう。ボードサーファーは、この二人より若い伊藤。
3人は日本から揃って武田荘にやって来たわけではなく、たまたま武田荘で出会ったのだという。
三人とも、サーフィンは日本で始めたが、いつかは波の条件の良い場所で思う存分サーフィンを楽しみたいということで、数年の会社勤めで貯めた資金を元にここにやって来たという共通点があり、一気に意気投合したようだ。
1シーズンの夏すべてをサーフィンに当てるといっても、会社がそんな長期休暇を認めるわけがない。つまり、3人ともかねてからの夢を実現するため、会社は辞めてきたのだ。
夢の実現のため、数年間に亘って金をため、勤めていた会社を辞めて、ひと夏のすべてをサーフィン三昧で送る。
なんともまあ、思い切った人生の選択だが、私はそうした選択を潔いというかさわやかというかある種の好感を感じた。
「Mさんは、どうして武田荘に来たんですか」と三人のうちの一人に聞かれ、それまでのいきさつをかいつまんで説明した。
オーストラリアにやって来たのは、日本の文化、社会事情を世界のいろんな国の学校で紹介するインターンシッププログラムという事業に参加したからで、日本では塾の講師をしていたが、それは辞めてきたというようなことだ。
目的達成のために、日本での仕事をやめてオーストラリアにやって来たという点が彼らの共通していたためだろうか。自己紹介をした後、彼らはなにやら感慨深げだった。
ややあって、田中が口を開いた。
「Mさんはこちらで日本の文化なんかを紹介してるんですよね。それじゃひとつお願いがあるですけど」
「お願いって」
「俺たちがビーチにいると、地元のサーファーたちがなんやかんやで絡んでくるですよ。どうやらクジラのことで日本人にいちゃもんをつけてるらしいんですけど、俺たち英語はさっぱりなんで、反論できないんですよ。Mさん、英語ができるみたいだから、あいつらに一発がつんと言ってやってくださいよ。クジラを食べるのは日本の食文化なんだって」
田中のこの言葉に、他の二人もうなづいていたから、クジラを食べる日本人に対する反感はサーファーたちにまで及んでいるようだった。
「まあそういうことを含めて、日本の姿を紹介するためにここに来たので、しっかり日本の立場は説明するよ」
「お願いしますよ」
そういうような会話があり、その日はそれでそれぞれの部屋に引き取った。
相部屋の相手は、田中だった。
「明日は早いの」と聞くと、「日の出前に出かけます」との返事。
「明日の夕食は、俺が作るわ」
「明日は佐々木が作る番で、その後が伊藤。Mさんはその後でいいですよ」
「夕食の食材はどうする。俺、どうせ明日は暇だからかって来ようか」
「じゃそれお願いします」
そういう会話を交わして消灯となった。