知性が大事#20

夕方といってもまだあたりが明るいうちに、武田荘に泊まっているサーファー3人が同じ車に乗って帰ってきた。
おそろいといってもいいほど、同じようないでたち。派手な色のバミューダパンツ、多色使いのアロハシャツに、玉虫色に色が変化して見えるサングラス。
一見して、自分とは種類の違う人間に思えた。こういう意識は相手方にも自然と伝わるものだ。
三人が帰ってきて、武田荘はにぎやかになったが、毛色の違うのが一人いて、雰囲気はちょっと微妙なものだった。
雰囲気の違う私を無視するかのように、三人のうちの一人が、共有ホールにある炊事場で夕食の準備を始め、残り二人はホールのテーブルで雑談を始めた。
食事は自炊なので、食材は自分で用意して、ホールの炊事場にある器具で調理することになる。
調理器具はいくつもあるわけではなかったので、最初の一人が終わらないと自分の食べる分は調理ができない。
調理を始めたサーファー、仮に名前を田中としておく。田中はチャーハンか何かを作り始めたが、その手際はかなりなものだった。
その様子をじっと見ていると、「直ぐ終わりますから、もうちょっと待っていてくださいね」と、丁寧な言葉遣い。
昼の時間をずっとサーフィンをして過ごし、派手にいでたちで帰ってきたことから、私は彼らに対して一種の偏見を抱いていたが、丁寧な言葉遣いは彼らが全うな社会人であることを示していた。
実際、グラサンをはずした彼らの表情は、真っ黒に日焼けしてはいるものの、二十歳そこそこの若造ではなく、20代も後半、ひょっとすると30代に入っているのではと思わせるものだった。
「ああ、どうぞごゆっくり。腹ペコで直ぐにでも食べたいというわけではありませんから」
丁寧な言葉遣いに対してはこちらもそれなりに対応する。
「調理器具は、一通り、ここにありますから」そういって田中は、コンロ台の扉を開けて、中の調理器具を見せた。
「ああ、そうだ。おれたち3人は日替わりで調理を担当して、晩飯を作ってんですけど、良かったら、仲間に入りませんか。手間省けますし、食材にも無駄が出ない。一人分だけ買ってくるって面倒くさいでしょう」
「当番制か。いいね。調理の順番待たなくってもいいしね。でも俺が作れるものっていってもそんなにレパートリーないけど」
「いいですよ、そんなこと。みんなおんなじ様なものだから」
「でもお宅のその手際、かなりのもんじゃない」
「ああこれね。会社の寮で暮らしてたんで、自炊は毎日。いやでも上達しますよ。今日は俺の当番なので、良かったらそちらの分も作りますよ。食費はもらいますけど」
「了解。実のところ今晩のメシどうするか困っていたところさ」
「まだ名乗ってなかったですね。俺、田中って言います、よろしく」
「Mって言います。よろしく」
こうして、武田荘でのまるで合宿のような生活が始まった。