関係代名詞の制限(限定)用法について6

さて、制限(限定)用法の制限(限定)とは、先行詞で表示されたものが複数存在し、その中から対象を関係詞節の内容で絞り込んでいくことということが分かったところで、「日本人の英作文」の課題箇所をもう一度見てみることにする。

課題文
巣から落とされたつんちゃんが、きょうだいの中でいちばん先にとべたのです。
訳例1
Tun-chan who was dropped from a nest flew at the very first among the brothers.
訳例2
Tun-chan that has been dropped from the nest could fly earlier than any other siblings.

訳例のどちらも,関係代名詞の制限用法を用い,その先行詞が"Tsun-chan"になっている。
ということは、この物語のこの現場に複数の"Tsun-chan"がいて、その中から"who was dropped"または"that has been dropped"に該当する"Tsun-chan"に絞り込む必要があった事になる。
物語のこれまでの展開から、サリーちゃんが複数のひな鳥に同じ「つんちゃん」という名前をつけたとは解釈できないから,上記の訳例はどちらも不可なのだ。
日本語には、制限用法の制限という機能を担った語法が存在しない。
存在しないものは、いくら丹念に説明して、理解させても、その理解はそのときかぎりのものだ。少し時間がたてば、雲散霧消、跡形もなく消える。何度こちらが説明しても記憶として定着しない。
さらに、学校で習う制限用法の説明は、ここで述べたことと違うから、英語がよくできた人ほど、学校での知識が脳内にどっかと根付いていて、それと矛盾する説明を受け付けない。
脳というのは、保守的なもので,すでに根付いた知識を守り通そうとするから、後から入ってきた、それまでの知識とは矛盾する内容は即座に排除される。
さて、ここまでの議論の端緒は3-Jの日本語をどう英訳するかであった。そこで、3-Jと3-Eを再掲してみる。

3-J 私が去年,受賞したノーベル賞はとても光栄でした。
3-E The Nobel prize which I received last year was a great honor.

マーク・ピーターセンは、3-jの日本語の英訳として,3-Eは不適切であるとしている。
それではその逆、つまり、3-Eの英語が先にあり、それを日本語に訳すとして3-Jはどうかというと、やはり不適切なのだ。
私が「日本人の英語」や日本人の英文法」から得た知識で,3-Eを訳すと次のような日本語になる。
「私は過去において、複数のノーベル賞を受賞しましたが,その中で去年受賞したものに限って言えば、光栄でした。」
この日本語と3-Jの日本語訳とを比べてみるがよい。
3-Jの日本語は学校で習う、関係代名詞制限用法の訳し方に沿ったものになっているが,制限用法の本当の意味を全く反映しておらず,不適切なものだ。
しかしこのことは、学校英語の「不適切な真実」にまともに触れるもので,脳内の既存知識がそうであるように,私がいくら主張しても誰も耳を貸そうとしない。