日本人の英作文2016-21

前回記事から間が空いてしまったが、「キツネのハンカチ」の続き。

課題部分
「とてもたいせつなものをいれるポケットなんです。とれないようにしっかりぬいつけてください」
それをきくと、平井さんは、あいてがキツネであることをわすれて、ついたずねました。
訳文1
"I keep the precious item in the pocket. So please sew securely it on this apron, don't come off."
Mr. Hirai listened to him and asked to him without thinking that he is a fox."
訳文2
"This is the pocket for my precious goods. Please sew tightly so as not to come off."
When Hirai-san heard that, he forgot that the visitor was a fox and asked unconsciously."

訳文1の"the precious item"の定冠詞はそれまでに言及されていないものにつけている。
それなら、ほかに定冠詞をつける根拠がないといけないが、これまでに語られた部分には手掛かりがない。つまり不適切な使い方。
「とてもたいせつなもの」は一つに限らないだろうし、それがどんなものか知らない平井さんに対して使うには、訳文2にあるように無冠詞複数の名詞を使うのがよい。
日本語の文から、受験英語的に英作文をすると次のようになると思う。
This is the pocket in which I keep very precious things.
この文の"which"は、前置詞がついているが制限用法。制限用法については使い方を誤ると日本人が気が付かない意味が付け加わるので、私が指導している生徒には何度も注意してきた。
たぶんそのせいで、この二つの訳文には関係代名詞が使われなかったのだろう。
関係代名詞を使っていなくても、訳文2の前置詞句は限定用法の関係代名詞と同じ働きをしていて、関係代名詞を使った上記の文と同じ意味。
ここで、上記の関係代名詞を使った文は、前回の記事で、「エプロンの真ん中についているポケット」で限定用法の関係代名詞を使ったり、前置詞句で後ろから"pocket"を修飾する構造の文にした場合、完全に正しい。
前回でも説明したが、こうした構造はキツネが持ち込んだエプロンには複数のポケットがついていて、真ん中にあるポケットをほかのものと区別する必要からそうなっている。
もっとも、訳文2の訳者はそんなことは、まったく気にも留めずにこの文を作ったと思うが。
もし、前回、このエプロンにはポケットが一つしかないことが前提の文にしたのだったら、今回の部分で上記のような制限用法を使った文は間違いということになる。
「取れないように」の部分はso that〜の構文を使うのがよい。
訳文2のso as not toは目的を表す不定詞句だが、不定詞は意味上の主語を特に明示しない限り、主文の主語がそのまま不定詞の意味上の主語。
命令文の主語はyouだから、come offの主語としては不適切。
今回の課題部分で難しいのは次の文。とくに「ついたずねました」はかなり面倒な部分。
訳文1の"without 〜ing"は、一応使えそうだが、この文には、日本語にある「つい」のニュアンスが出ていない。
日本文で「つい〜する」の文には、cannot help 〜ingまたは、cannot resist 〜ingがちょうど使える場合がある。
cannot help 〜ingの方は、ing部分の動詞として、感覚動詞、意識動詞、欲求動詞が主に使われ、cannot resist 〜ingの方はそれ以外の動詞が思い使われる。
どちらの場合も、そうした行動が一般常識から考えて、不適切な場合にのみ使われるから、今回のこの部分に使うのは適切ではない。この文脈で質問することは何も不適切ではないからだ。
これが例えば、相手のプライバシーに関することで、好奇心に駆られて「ついたずねてしまった」というなら"He couldn't resist asking him."として問題はない。
上記cannot helpとcannot resistの使い方については、別記事で取り上げることにする。
課題文の「つい」をうまく訳すには、そもそもこの言葉がどういう意味でここで使われたかを検討する必要がある。
ヒントはその前の「あいてがキツネなことを忘れて」の部分。
つまり、平井さんは「つい、(相手が人間の場合と同じように)たずねた」わけだ。
かっこをつけた部分を、書き手は省略してしまっている。
英語では、こうした省略は不適切。読み手や、相手に正確に意味が伝わるように、表現しなければならない。
「つい」の部分を訳文2は副詞unconsciouslyを使って表そうとした。英英辞典ロングマンでunconsciousの項を引くと4番目の定義に次のようにある。
4 an action that is unconscious is not deliberate
これはunintentionalとほぼ同じ意味。つまり意図的ではない行為に使う。
日本語でいうと、ついはついでも「ついうっかり」または、「何気ない」の意味。
原文の「つい」の部分に「ついうっかり」または、「何気なく」を代わりに入れてみると、うまくつながらない。
ということはここの「つい」をunconsciouslyやunintentionallyで表すのは不適切だということ。
訳例
"I use this pocket to keep very precious things. Would you stitch it tightly so that it won't come off again?"
When Mr. Hirai heard the fox's request, forgetting the fact that he was a fox, he asked him as if he was a human.