日本人の英作文2016-1

日本人の英作文、2016年の最初の課題は、これまで取り上げた課題とは打って変わったもの。
以下に課題文の前半を引用する。

別れ話は突然に   桐野夏生


地下鉄ホームでの出来事だった。亜美がこう囁いたのだ。
「あたし、あなたについていけない。何か嫌いになりそうな予感がすんるんだ」
ちょうどその時、『一番線に電車がまいります』というアナウンスが流れたが、驚いた亮平の耳には、全く聞こえなかった。
「ちょっと待って、わけがわからないよ。説明してくれないかな」
亜美は心を決めていたと見えて、こくりと頷いた。
「あなたって、何でも自分に都合よく解釈するんだよね。ポジティブな人って、付き合うと結構疲れるよ。だって、言葉の裏にある恐れとか悲しみとか、全部無視してるんだもの」
「無視?つまり、俺が鈍いってことかい?」
「そうだよ」亜美は、亮平の方を鋭い眼差しで睨んだ。「この間、あたしが仕事のことを相談した時、あなた笑ったよね。それで、先がわからないのは何でも同じだよって軽く言った。あたしは悩んでいたのに、あんな言い方しなくたっていいじゃない」
「難しく考えるなよ」
亮平は笑おうとしたが、亜美は苛立たしげに首を振る。
「あたしはね、あなたと違って面倒くさい人間なの。ああでもない、こうでもないって、いっつも考えている。あなたは自分が楽になる思考しかできないのよ」
思考ときたか。亮平はその時のことを思い出した。亜美が『今、仕事を辞めちゃったら、バスから降りることでしょう。一寸先は闇みたいなもんだよね』と溜息を吐いたのだ。
「俺が同意すればよかったのか」

課題文は読売新聞の2015年11月22日朝刊の広告のページに載ったもの。
長い小説の一部から採ったものか、この広告のために作家が書いたものかは知らない。
子供向けに書かれた童話でも、英作文するとなるとなかなか手ごわい。
こうした大人向けの話を英作文するとどうなるか。先が楽しみ。