からだのことS4#5

また、「日本人の体質」には、次のような記述もあった。同書の62ページから63ページにかけて引用する。

終戦直後は、ひどい食糧難だったと信じている人が多いのですが、カロリー摂取量で見る限り、完全な誤解です。実際には現代人のほうが食べていないのに、糖尿病になる人がはるかに多いのです。また、砂糖の摂取量も増えていません。糖尿病になると尿が甘くなることから、甘いものを食べると糖尿病になるとか、糖尿病の人は甘いものをひかえるべきだという発想が自然に生まれました。しかし、砂糖の摂取量もまた、1970代以降、減り続けています。
(中略)
では、日本で糖尿病が増えた原因はなんでしょうか?
答えは、やはり厚生労働省の調査結果からわかります。カロリーの総摂取量に占める脂肪の割合が上がり、炭水化物の割合が下がったのです。脂肪の摂取比率は、終戦直後の1946年にはわずか7%だったのが、1990年に25%を超えて現在にいたっています。これでも先進国のなかでは非常に低い水準ですが、カロリーの摂取量が減っても、そこに占める脂肪の摂取比率が上がっているので、脂肪の摂取量は高いままです。

脂肪の摂取比率が上がると糖尿病になりやすくなる?
あまり聞いたことのない話だ。それを裏付ける動物実験なり、医学的の実証実験などがあるのだろうか。
もとより、脂肪は血糖値とは直接の関係がない。血糖値を上げるのは糖質のみであり、糖質の過剰摂取が食後の血糖値を上げる原因であることは明白で、例のNHKの番組でもそこが問題であると指摘されていた。
どうやら、摂取食物と糖尿病の発生の因果関係は、医学界ではすべての医師の間での合意形成はないようだ。
上記に引用した本の著者は厚生労働省の「国民健康・栄養調査」などをもとにして先の理論を構築したようだが、この調査そのものがどれほど実態を反映した正確なものかには疑問を持たないようだ。
摂取カロリーが減少の一途をたどり、さらに炭水化物の摂取量も減少しているのに、糖尿病患者の数が増え続ける。
これは、日本人の特異体質が引き起こす、世界に類例のない特異ケースなどではなく、厚生労働省の調査方法そのものに不備があると考えた方がはるかに自然だ。
摂取食物の正確な調査はかなり難しいもののはずだ。
それは、私自身が自分の現実に食べているものの栄養分析をするため、一か月間ではあるが、食べたものの種類と重さを細大漏らさず、すべて書き出し記録をとってみてよく分かった。
実際の話、とてつもなく面倒な作業だ。食卓が計量計、いくつもの計量カップ、ノート、電卓などに占拠され、ノートを取らないといけないから、食事の方は一向にはかどらないといった事態になる。
また、どんなに少量であっても、調味料を使った場合、これを正確に測らないと正確なデータは得られない。
調味料の多くは、塩分、糖分、脂肪のいずれか、または複数が異常に高い。これを無視することなどできないのだ。
となると、数ml、数g単位での計量が必要になってくる。一日だけの計量ですら、正確に測るには根気がいる。
全体的な傾向を知るには、少なくとも1週間連続の計量を行い、平均をとることが必要だろう。
そして、こうした正確な栄養分析を、多数の人間に関して行って初めて正確な摂取カロリー、それぞれの栄養成分の摂取比率が計算できる。
著者が参考にしたという厚生労働省の調査が、どのような手法で行われれたのかは知らない。
しかし、私が実際に行ったような方法を大人数で行い、それをもとに調査結果を出したとは到底思えない。
不正確なデータをもとに、どのような理論を構築しても意味がない。