朝ドラを見て

NHKの朝ドラ「ひよっこ」を毎日見ている。
数日前の放送では、主人公のみね子が久しぶりに故郷の奥茨城村に帰ってくるシーン。姉の帰郷を喜ぶ妹と弟と一緒に田んぼ道を歌いながら歩いていた。
その時の歌が水前寺清子の「365歩のマーチ」。
♪幸せは歩いてこないだから歩いてゆくんだね
一日一歩、三日で三歩、三歩進んで二歩下がる・・・
この最後の部分で、弟が姉に聞いた。
弟: これじゃ先に進めないじゃないか
姉: 三歩進んで二歩下がるだから、一歩ずつ進むってことよ
弟: それじゃはじめっから一歩ずつ進めばいいじゃないか
この理屈のこね方、私の小さいころそっくり。
弟の理屈に姉のみね子は何も答えず、3人は家に向かって歩いていく。
人生は前進ばかりではなく、後退を余儀なくされることも多い。
そういうことにも負けずに、後退以上の前進をすることで一歩ずつ幸せに近づいていこうというのがこの歌の趣旨だろう。
まだ小さい弟には、このような人生のあり様などわかるはずがないから、上記のような理屈になるのは致し方ない。
それに対して、みね子に何も答えさせなかったのは、賢明かもしれない。
ドラマでは、この時のみね子の年齢は二十歳そこそこのはずで、その年齢でも、まだ人生の機微を弟に説いて聞かせるには若すぎる。
ところでこの歌の歌詞については忘れられないエピソードがある。
もう数十年前に見たあるテレビの番組、番組名は「オールスター家族対抗歌合戦」。その時の司会は萩本欣一だった。
一般人の芸能人家族が番組で対抗歌合戦をするというもので、確か三世代そろった家族全員が何か歌うという条件だったと思う。
私はこの番組が好きで、毎週の放送を楽しみにしていた。
そしてある日の放送で、おじいちゃんが「365歩のマーチ」を歌った。
その時の歌詞が振るっている。
♪一日一歩、三日で三歩、三歩下がって二歩進む
すかさず司会の欽ちゃんが
「おじいちゃん、それじゃ下がってばっかりで前に進めないよ」と突っ込んだ。
後ろに下がりっぱなしの人生では、幸せから遠のく一方。それじゃあんまりだ。
おかしくて腹を抱えて笑ったが、すぐになぜこのおじいちゃんが歌詞を間違えたかが分かった。
私よりずいぶん年齢の上の世代では、学校で修身を習っている。修身教育では、教師の立場をより強固にするため、「三歩下がって師の影を踏まず」ということが教え込まれたようだ。
正確には「三尺下がって…」が正しいようだが、「三歩下がって…」も十分、人口に膾炙していたのだろう。
このフレーズが頭にこびりついていたものだから、歌詞の中に「三歩」が出てきたら、条件反射で「下がって」を続けてしまったのだと思う。
ある年齢から上の世代にとって、「三歩」は進むべきものではなく、下がるものなのだ。