日本人の英作文50

荒川静香のエッセイ英訳の続き。

原文: チョコが一番のお姉さんで、体格も大きく、犬たちの間ではリーダーとして認められているようです。末っ子で甘やかされているローザのことも、たまにピシッと怒っています。
 個性豊かな犬たちが集まりましたが、しつけなどで生活環境を整えることが私の責任だと思っています。

訳文1: Choco is the oldest one and of a good physique, that seems to be considered the leader among them. She sometimes scolds Rosa sternly, which is the yougest of the four and indulged.
They each have their own characters, so I think my role is to control their living environment through discipline, for instance.
訳文2: Choco is "the eldest sister" and has a good physique. It seems that she is recognized t be a leader among them. Occasionally, she gives a strict warning to Rosa which is her "youngest sister", being indulged.
They are all individual dogs. I think it is my responsibility to prepare a suitable environment for them by dog training and so on.

訳文1の第1文目、最上級を限定範囲を明示せずに使っているが、日本人がよくやる間違い。これも省略が当たり前の日本語をそのままに英訳しているからだ。
英語では、最上級を使うときは、それが妥当する範囲を必ず明示しなければならない。
妥当する範囲を一度、明示しておけば、その後は省略することができる。
訳文2の"the oldest sister"は、さらに、意味不明の引用符を用いている。日本語の引用符と英語のそれは、使い方が同じ場合もあるが、異なる場合の方が多い。
訳文2が、なぜ原文にもない引用符を用いたかは不明。
また、原文に「お姉さん」があるから、sisterを使ったのだろうが、チョコとティラミス、ローザとは血縁がなく、sisterは使えない。
原文の「お姉さん」は日本語で、単に年上、場合によっては年配の女性を指す場合の使い方と同じで、チョコがメスだからに過ぎない。
「体格も大きく」の部分に、訳文1、2ともに、physiqueという言葉を用いている。
単に、She is big.とせずに、この言葉を用いたのは、多分、和英辞典の「体格」の項目に、physiqueがあったからだろう。しかし、この言葉の意味するところは、この文脈にはふさわしくない。
次に引用するのは、American Heritage Dictionaryによる、physiqueの説明

physique
The body considered with reference to its proportions, muscular development, and appearance: "a short man with . . . the physique of a swimmer"

つまり、physiqueが使われるのは、スポーツ選手などの鍛えこまれた肉体に関してであり、一般の人間の体についてではない。女性に関して、women's physiqueといえば、日本人には想像もつかない世界のことだ。この語を検索語にして、ネット検索すれば、目をむくような女性たちの画像が見られる。
和英辞典にある言葉を選ぶのもいいが、さらにその語がどういう意味を持つか、英英辞典で、調べなおす手間をかけなければならない。
ちなみに、私は英訳の時に、和英を使うことは使うが、必ず、使おうとする単語、フレーズに関して、ネットによる一般検索を行ってから使用している。
最後の「末っ子で甘やかされているローザ」の部分に関して訳文2は、48回で指摘したのと同じ間違い、つまり、固有名詞を限定用法の関係詞節で修飾するという誤りを犯している。
その点、訳文1は、Rosaのあとに、継続用法(非制限用法)の関係詞で続けているから、まだましだが、"is indulged"が誰によってかが明示されていないため、その前の"sternly scolds"の部分と矛盾するかのような表現となってしまっている。
日本語では省略が当たり前の部分を補うことなく、そのまま英訳したのでは、流れの悪い英語になってしまう。
また、ついでながら、継続用法はあくまで、補助的情報の追加であって、「末っ子で甘やかされている」の部分が文頭に来る原文と、最後に継続用法の関係詞でその部分を付加的に述べる訳文1とでは、伝える情報が同じでも、読んだときの印象がまるで違う。
「ピシッと怒っている」の部分を訳文1、2ともに、gets angry atなどとしなかったのはよかったが、訳文1で使っているscoldという単語も、感情的要素を含んだ言葉で、やはりこの文脈にふさわしくない。
原文の「ピシッと怒る」は、ローザがよくない行いをしたとき、リーダーとして、それを正そうとするチャロの行動を言っているのだから、もっと別の単語を使う。
余談ではあるが、日本では、躾けの一環として行う行為を、感情的になって怒鳴ったりすることを、同じ「怒る」で表現する。
この辺りが体罰と指導の違いすら、認識できない人間が多くいることの背景だろうと思う。
原文の後半、訳文2の"individual dogs"という表現。これも、「個性豊かな」を和英で調べて、このようにしたのだろうが、どういう文脈で、どのような場合、individualが個性的なという意味で使われるか調べずに使ったもの。
訳文1のような表現が無難。ちなみに、「個性」の部分にpersonalityが使えるかどうかは疑問。dog loversなら、無条件で認めるだろうが、一般的に、キリスト教文化圏で、動物にpersonalityは認めていない。
今回が荒川静香のエッセーの最後だが、訳文1、2とも、日本語を英訳する際の日本人の欠点のオンパレードという印象だ。
訳例: Choco is oldest and biggest among the four dogs and is seemingly considered to be the pack leader by them. Rosa is the youngest dog and is indulged by the humans, but instead, Choco as the pack leader sometimes disciplines her strictly.
The dogs have all different characters. I think it is my responsibility to keep a stable relationship among us by discipline or ohters.