新たな子犬たち38

近くまで駆け寄ってみると、思ったとおり、それはびしょ濡れの子犬だった。
全部で4頭いた。私が勢い込んで走り寄ったにもかかわらず、子犬たちは無反応だった。

  • 低体温症で危険な状態だった子犬

どの子犬もぐったりとしたまま、草地の上にへたばったままで、そのうちの一頭は腹を上にして、びくりとも動かない。助け出される時に溺れたか。
最初にその子犬に近づき、顔を軽く手のひらでたたいてみたがまったく反応がない。
次に腹部に手を当ててみたが、体温がまったく感じられない。大腿部付け根にある動脈に拍動は感じられなかった。
ああ、だめかと思ったが、腹部を下にして、胸の辺りを両手で持ったときに左手に心臓の鼓動がかすかに感じられた。呼吸も弱いながらもしていて、溺れたのではなさそうだった。低体温症を起こして、意識がないのだ。
まだ今なら体を温めれば、助かるかもしれない。そう思い、まずその子犬を持参したカゴに収容した。
ほかの三頭は、弱ってはいるものの、しっかりと呼吸しているのが見て取れたので、心配はなさそうだった。

  • 抱き上げた時に叫んだ子犬

その三頭のうちの茶色の子犬に手を伸ばし、抱き上げた時、キャインという甲高い声をあげた。まずい、今の声が母犬に聞こえたのではないかと思ったが、それはそれで仕方がない。
次に、シロと茶色のブチの子犬に近づいたら、いきなり立ち上がって逃げ出した。
まだ、逃げ出すだけの元気があったのには驚いた。
あわてて、追いすがり、捕まえてカゴに収容しようとした時、母犬が激しい吼え声とともに堤防を駆け下りてきた。
やはり、さっきの叫び声を聞きつけ、子犬の危機とばかり、中州に残った子犬の救助の途中で引き返してきたのだ。

  • いきなり逃げ出した子犬

手に持ったブチの子犬をカゴに入れ、激しく吠え掛かる母犬にはかまわず、残った茶色の一頭もカゴに収容した。
野犬たちは、激しく吠え立てはするが、飛び掛ってくるほどの凶暴性はないことを知っていたので、母犬の出現に慌てることもなく、収容作業を終えた。ずしりと重くなったカゴを持ち上げ、その場から離れた。
振り返ってみると、母犬は、私に追いすがることもなく、さっきまで子犬たちが転がっていた草地を子犬の臭いの痕跡を求めて、探し回っていた。
その姿に胸が締め付けられた。必死の思いで助けた子犬を人間にさらわれてしまったのだ。
半狂乱といっていい姿に、「ごめんな。お前の子犬たちには、きっといい里親を探して、大事に育ててもらうから許してくれ。それより、まだ中州に取り残されている子犬を助けてやってくれ」と心のなかで母犬に詫びながら現場を後にした。