「リンゴ」 by まど・みちお

童謡詩人として有名なまど・みちお
追悼番組のひとつを見ていて次の詩を知った。

リンゴ    まど・みちお
リンゴを ひとつ
ここに おくと
リンゴの
この 大きさは
この リンゴだけで
いっぱいだ
リンゴが ひとつ
ここに ある
ほかには
なんにも ない
ああ ここで
あることと
ないことが
まぶしいように
ぴったりだ    (伊藤英治編『まど・みちお全詩集』理論社2001より)

あるブログで、この詩を採り上げ、リンゴとその周りを取り囲む空間を存在と非存在の対比と捉えて、その対比によってリンゴという存在の尊厳性を詠ったものというような解釈をしていた。
しかし、私の解釈は違う。
リンゴは存在の代表として採り上げたものには違いないだろうが、目の前にあるリンゴは他のどのリンゴでも替えようのないものとして採り上げているように思う。
仮に「このリンゴ」を取り除いて、その後にできた空間に他のどのリンゴを持ってきても、前のリンゴが占めていた空間をぴたりと埋めることはできない。
そのように、ある存在はそれがリンゴのような植物であれなんであれ、唯一無二のものであり、他の何をもってしても、替えがきかない。
そういった存在の唯一無二性を感じ取った喜びを「まぶしいようにぴったりだ」と表現した。これが私の解釈だ。

それにしても童謡詩人のこの詩は、童謡を聴く年代の子供たちには、ちと難しすぎはしないだろうか。