訳詞という難物4

Desperadoの訳詞その1も、その2も英語力の乏しい人によるものだということが見て取れるので、もう少し英語力のある人物が手がけた訳詞はないものかと探してみた。
次にあげる訳詞は高校の英語の先生によるもので、女性の視点から訳してみたと、訳詞が出ていたHPに書いてあった。
同じ歌詞が、歌う歌手の性別によって意味が変わるものだろうかと思ったが、その訳詞は次のようなものだった。

訳詞 その3
困ったひと…
どうして、気がつかないの?
ずっと、どっちつかずのままね
あなたの頑固さは相変わらず
あなたなりの理由があるのはわかっているつもり
今、こうして2人、楽しいことでさえ、
悲しみになることもあるっていいたいのでしょう?
あの人を愛してはダメよ
傷つくのはあなたの方なのだから
私のことを心に留めていて
こうしてずっと目の前にいるのに
あなたはあの人のことばかり
困ったひと…、若い時分は過ぎているのよ
心が傷ついて、「何か」足りないという思いから
安心したいとあせっている
自由、そう、「自由」なんて言葉を
決まりきったようにあなたも口にするけれど
囚われた心を抱えて一人きりで生きている
ひとりで眠っていて冬には足が冷たくないの?
冬のような冷え切った心では、真っ暗で、希望の光も見えない
そんなことでは生きているのか実感がなくなってしまうわ
この頃では、人に心の表情を見せぬようになって
自分の心が埋もれていくさまを楽しんでいるの?
困ったひと…
気がついて
高みの見物を決め込むのはもう止めて
心をひらいて
いいことばかりというわけにはいかないかもしれないけど
希望という虹がきっとあなたにも見える
好きになってもいいでしょう?
今なら、まだ

この訳詞では、Deperadoは違うタイプの二人の女性の間で、どっちを選ぶかを決められないでいる、孤独を抱えた男性という人物設定となっている。
全体にうまく訳してあるよう見えるが、一つのストーリー設定のため、あちこちの訳がその設定のために捻じ曲げられている印象がある。
"Don't you draw the queen of diamonds, boy/She'll beat you if she's able"の部分を「あの人を愛してはダメよ傷つくのはあなたの方なのだから」と訳すのはいくらなんでも訳しすぎだろう。
"Don't your feet get cold in the winter time?/The sky won't snow and the sun won't shine/It's hard to tell the night time from the day"の部分も、「ひとりで眠っていて冬には足が冷たくないの?/冬のような冷え切った心では、真っ暗で、希望の光も見えない」となっていて、孤独な男の一人寝を表現したもののように訳している。これもまた訳しすぎだ。
さらに、"It's hard to tell..."の部分は完全に無視している。
翻訳で訳者の勝手な思い入れを訳に反映してしまうのは、翻訳におけるタブーのひとつだ。これでは、作詞者が本当は何を伝えようとしたのかが分からなくなってしまう。