捕獲器

1月31日は、朝からうっとうしく、小雨のぱらつく日だった。
このところ気になっていることがひとつある。
犬の散歩によく行く河川敷で暮らす3匹の子犬たちのことだ。
どうにか保護できないかと、様子を見に行くが、すでに生まれて3ヶ月ぐらいに
成長しており、もう追いかけて捕まえられなくなっている。
そこで、以前購入してあった小動物用捕獲器を、前日の夕方6時過ぎに河川敷のある場所に仕掛けておいた。
日が暮れた後は、人気がまったくない遊歩道から川の中洲に入ったところで、人家は近くにひとつもなく、月明かりと、遠くの防犯灯のみがうっすらとあたりの景色を浮かび上がらせるという場所だ。
昼過ぎから本格的に雨だというので、仕掛けた捕獲器を回収に、朝の6時に出かけた。
あたりは、まだ暗く、人通りもまったくない。
思ったとおり、子犬はかかっていなかった。捕獲器は犬用ではなく、子犬でも少々小さすぎる。
家に戻った後、朝食を取り、いつもどおりの土曜日と変わらない、朝の時間をすごした。
今日は甥っ子が来るというので、その子のための昼ごはんを調達に、スーパーの開店時間を待って出かけることにした。
いつも行くスーパーは決まっていない。5、6つの違うスーパーから気が向いたところに、そのときの気分で行く。
河川敷の子犬が気になったので、もう一度、捕獲器を仕掛けた場所近くにいるか確かめに出かけた。
成犬の野犬の姿がちらほら見えたが、子犬の姿はなかった。雨の降る日、子犬たちはどうしているのか少し心配になった。
その足で、一番近いスーパーに行くことにした。途中、幹線道路から外れて、地元の人間しか知らないような抜け道を通る。
スーパーで買い物をし、レジを終わって、近くのカウンターで、レジ袋に買ったものを入れていたときのことだ。
ふと顔を上げると、そこには一枚のポスターが張ってあった。
ポスターには、めがねをかけた中年男性の笑った顔があり、その写真の人物と視線があったような気がした。
小さな文字が印刷してあり、スーパーの広告ではなさそうなので、やり過ごそうとしたが、印刷された文字の中に、ついさっき、行ってきた河川敷近くの公園の名前があることに気がつき、思わず目が留まった。
そのポスターは、河川敷で死体で発見された人物に関する情報を、地元警察が求めるためのものだった。
去年の暮れ、私が行ったスーパーのすぐ隣のドラッグストアで、午後6時に買い物をし、自転車で自宅に向かったはずのその男性が、程なくして、河川敷で死体となって発見されたと、ポスターには書いてあった。
遺体発見場所を示す地図も、ポスターに示されていた。その場所は、私が捕獲器を仕掛けたまさに、その場所であった。
男性は、スーパーに向かうのに使った抜け道がある地域の住人で、私は男性がたどったかもしれないルートを逆コースで、スーパーにたどり着いたことになる。
遺体発見場所から持ち帰った捕獲器はもちろんのこと、今も家にある。
捕獲器には、目的の子犬はかからなかったが、とんでもないものを捕獲してしまい、一緒に持ち帰ったのかもしれない。