ワンコ屋敷5

2年前の2月14日のことだ。午前中の地区の公民館での学習会が終わり帰宅。
昼食の後しばらくして、午後早く、犬を連れて散歩に出た。自宅からすぐのところに川の堤防があり、そこから川沿いの遊歩道に出る。
その遊歩道を川下のほうに歩き出した。
10分も歩かないうちに、前方で、何人かの大人の人影が動いているのが見えた。
そのうちの一人が堤防の斜面を登ったり、降りたりとせわしくなく動いていた。
なにやら不穏な動きに、心がにわかに波立った。
人影が見えるあたりは、中州で暮らしている子犬たちがよく出没する場所なのだ。
歩足を早め、人影の見える場所へと急いだ。
現場が近づくにつれ、状況がわかってきた。人影は手に手に、細長い竿状の物を持った5人の男たちであった。竿の先には、リング状のワイヤーがぶら下がっている。
現場では、子犬たちの1匹がまさに、このワイヤーを首に巻きつけられて、激しい鳴き声をあげているところであった。
ワイヤーが首に食い込み、子犬は苦しいため激しく暴れる。しかし暴れれば暴れるほどワイヤーは首に食い込む構造になっているのか、程なく子犬は、おとなしくなった。
おとなしくなった子犬を何人かの男たちが一斉に飛び掛り、ワイヤーはまきつけたままの状態で、近くの止めてあった収容車の檻まで運んで中に放り込んだ。
檻の中にはすでに捕獲された犬が見えた。私によくなついていた黒毛の子犬が中にいた。
私が遊歩道を通る時間を覚えていて、えさを期待して中州の茂みから遊歩道まで、出てきていたのだろう。真っ先に捕獲員の餌食となってしまったようだ。
まだ捕まらずに姿を隠した子犬を探しに、残りの捕獲員が中州の草むらに踏み込んでいった。
「あっちに逃げた」「そっちだ」男たちの叫び声が川原に響いた。