人の噂も

  • SFTSを媒介するフタトゲチマダニ

世情を賑わすニュースの多い昨今、この話題はもう、旧聞に属すかもしれない。その話題とは、マダニが媒介する新しい感染症が発見されたというもの。
日本の複数の場所で、数人がこの感染症により死亡したことが血液検査で明らかとなった。感染症重症熱性血小板減少症候群SFTS)というもので、病原体はウイルスだ。
新しい感染症により死者が出たということで、メディアの反応はやや過剰なものだった。
しかし、この感染症、よく調べてみると、どうやら、ウイルスが特定されたのが最近のことだったということで、感染症自体は以前から日本にあったものらしい。
マダニが媒介する病気は他にもいくつか知られているが、それほど感染例が多いわけでもない。新しい感染症にしても、死亡例があるからといって、全国各地でそうした例が頻発している訳でもない。
だとすると、それほど神経過敏になる必要もないことなのだろう。
それにしても、以前からあった病気にも拘らず、病原体が特定されていなかったとは、日本の研究者は何をしていたのだろう。
病原体の特定は、素人が考えるより、はるかに面倒なことなのかもしれない。
ところで、犬にとって恐ろしい病気であるバペシアを媒介するのもマダニだ。
バペシアの病原体は原虫だから、ウイルスが原因のSFTSとは、病原体の大きさがまるで違うが、罹ると対症療法しかない点で似ている。
犬が罹る病気の多くは、ワクチン接種、予防薬などで防除が可能だが、ダニが媒介する病気には、ワクチンはおろか、適切な治療法すら確立されていないものが多い。
そこで、マダニ媒介感染症への対策としては、マダニに刺されないようにする、忌避剤を使うか、マダニが取り付いた場合に、薬剤の残存効果でこれを短時間のうちに殺滅する殺ダニ剤を使うことになる。
犬の場合、忌避剤にしろ、殺ダニ剤にしろ、薬剤をスポイト状のもので、首の後ろあたりに数滴垂らすか、スプレーで全身にふりかけて使用する。
蚊が媒介する感染症フィラリアは犬の飼い主の多くに周知されるようになったが、バペシアなどのマダニ由来の感染症に関しては、まだまだ周知が足りないようだ。
マダニに咬まれたからといって、必ず感染症になるわけではないし、マダニしょっちゅう咬まれるということもないから、対策をとらずにいても、感染症になることはまれだろう。
しかし、運悪く、感染してしまうと、取り返しの付かない事態になる可能性が大きい。
リスクを承知の上で、対策をとらないのは、一つの選択だろうが、知らないで感染が起きた場合は、後悔を引きずることになる。
さて、人間のマダニ媒介の感染症には、なにか対策があるのだろうか。人間用に首の後ろに数滴垂らしておけば安全だというような忌避剤はまだないようだ。
予防的対策もない、治療法もない新しい感染症、人の噂にものぼらなくなった頃、またどこかで、起きることだろう。